2016年1月に観た舞台

青年団リンク ホエイ『珈琲法要』観劇。実際にあった津軽藩士殉難事件を元に書かれたもの。かなりシリアスな内容なのだが、全編津軽弁で、山田百次の脚本らしく登場人物の会話のやりとりがおかしくて、楽しんで観られた。津軽弁の響きはなんとなくユーモラスだ。それに、意味は理解できても、細かいニュアンスなどはわからないから、内容のシリアスさがそれほど直接的に迫ってこないというのもあると思う。山田百次による開演前の津軽弁講座(?)も楽しく、自然と「芝居を楽しもう」というモードになる。標準語での上演だったら、もっと暗い印象を与える芝居になったに違いない。アイヌ民族との交流も描かれており、特にアイヌの女性がムックリを吹くシーンが印象に残る。ある場面でアイヌ民族が和人に対して抱いている感情が一気に迫ってきて、息苦しくなった。

the PLAY/GROUND vol.0『ブルールーム』
(前のエントリーに記したので割愛)

岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』観劇。つまらなかった……。役者たちが皆動物を模した仮面をつけて出てきて、動物のような声を出したり動きをしたりする。原始時代?よくわからないけど、滑稽な感じで、最初はまあまあ興味深く観ていたけれど、ストーリーもなくなんのつかみどころもなく、ただ修辞的なモノローグが延々と続くだけなので、集中力が途切れて寝てしまった。寝てしまったというより、積極的に寝たという感じだったかも。松村翔子、武谷公雄など魅力的な役者が出演していたのだが、皆仮面をかぶっているので役者を見るという感じではないし。最後まで入り込めないまま終わってしまった。さすがにこれはつまらないよな……と思いながらTwitterの感想をチェックしたら、皆結構評価している。神里さんらしいグローバルな視点で世界を捉えたスケールの大きい作品、だという。「支配者と被支配者の関係」とか移民がどうとか、他者との共生だとか様々なテーマがある。言われてみれば確かにそうだ。私が読み取れなかった(というか読み取ること、考えることを放棄した)のだった。だけど。頭を使わないといけない演劇って、私は今あまり興味がない。この作品についてもなにも情報を入れず、いわば自分の感性だけで観ようとしていたのだが、鈍いせいかなにかを感じることもできなかった。岡崎藝術座は昔はすごくポップだったイメージがあるのだが、ある時期から方向転換して、政治的・社会的なテーマを内包した作品を上演するようになった。私は『リズム三兄妹』『ヘアカットさん』あたりがすごく好きだったのだけど。

ヒヨコの神様『いい加減に気付けお前は性格悪いんだ』観劇。短篇三本のオムニバス。(劇)ヤリナゲの越寛生『スーサイド・イズ・リアリー・ペインレス』、柴幸男の戯曲をつくにうららが演出した『つくりばなし』、国分寺大人倶楽部・Straw&Berryの河西裕介『イマジン』。ヤリナゲは評判は聞いていたけど初めて観た。主宰の方が主演。この作品を観るまで、私はてっきり主宰は男性だと思っていた(男性ともとれる名前だし、劇団のイメージなどから)。非常勤講師をやりながら演劇をやっている女性の話で、実話をもとにしているようだ。短篇だったからどうなのかあまり判断できなかったけど、面白そうな感じがした。長篇を観てみたい。最後の河西さんの『イマジン』はすごく面白かった。前説でヒヨコの神様の副主宰の有吉宣人さんが登場し、自分のことなどを語る。かなりぎこちない感じで客席は白けていた。その後劇が始まる。河西さんの作品らしい、若い男女二人の美しく切ない恋愛のワンシーンが描かれる。劇が終わった後、またしても有吉さんが登場し、『イマジン』ができた経緯やトラブルなどを説明。当初はヒヨコの神様の齋藤芳隆さんが出演するはずだったが、河西さんが渋り、代わりに加藤岳史さんが出演することになったと。それでこの後同じ劇の斎藤さんバージョンが上演されることに。台詞もほかの出演者もなにもかも同じで、ただ加藤さんの役を齋藤さんに替えただけなのだが、まったく違う劇になっていた。先に加藤さんバージョンを見せることで、齋藤さんのユニークさが際立ち、笑えるものに。有吉さんの前説も含めた作品だったのだ。その構成のアイデアが秀逸。同じ台詞や状況でも、イケメンの加藤さんが言うのと、個性的な齋藤さんが言うのとでは、まるで意味が変わってくる。間に有吉さんによるぎこちないトークを挟むことで観客の心理を揺さぶる。最後の最後で有吉さんが前説で語ったことの意味がわかる……という。まんまと一本とられた。

青年団リンク・玉田企画『怪童がゆく』観劇。面白かった。大学のゼミの合宿の話。ゼミ生たちの恋愛、ゼミの先生と中学生の息子の関係などを会話だけで描く。息子を演じた玉田真也さんが、いかにも反抗期の中学生男子で、すごいウケた。ゼミ生の一人を演じたブライアリー・ロングさんの使い方が素晴らしい。最後はちょっといい話っぽくまとめすぎか。

ハイバイ『夫婦』観劇。岩井さんご自身の家族の話で、『て』の続編のような位置づけ。暴力的な父親の死を通して、夫婦や家族の関係を描く。「死」がテーマとなっているだけに、重い作風。もちろんハイバイならではの笑えるシーンも多いのだが、そう簡単に笑っちゃいけないんじゃないかと思わせる。舞台上に置かれた複数の机を、家の食卓や病院のベッド、研究所の椅子などに見立て、一人の役者が複数の役を演じてスピーディーにシーンが進んでいく。主役の菅原永二さんの独白や映像がところどころに入り、現在と過去を行き来しながら話が進むのだが、わかりにくさがまったくなくすんなり入れる。さりげなく巧みな演出だ。病院のシーンはドキュメンタリー風。父親が受けた手術や治療の内容について家族で話し合う。父親の死後、晩年の父と母の不思議な関係が明かされたりして、岩井さん自身の気持ちも少しずつ変化していく。その流れをなにも飾らずに素直にシンプルに描いているのが潔い。普通はどうしてもあれこれやりたくなっちゃうところなのに。

IAFT『客』
(前のエントリーに記したので割愛)

1月の観劇本数は7本。
ベストワンはハイバイ『夫婦』。