2017年に観た映画

この世界の片隅に』。年明け早々良い映画を観られた。戦争によって平穏な日常が失われても、「まともな精神」を保ってしぶとく生きていく。自分を見失わず、周りの人たちを気遣い、今あるものに感謝し……。難しいことだ。

新宿スワンⅡ』。ヤクザの世界も絡んでのシマの奪い合い、潰し合い。前作より「抗争」感が増している。男たちの抗争だけでなく、女たちの闘いも描かれているのがいい。華やかな水商売の世界に身を置きながら、女たちもそれぞれ事情を抱えて人生生き抜いている。続編がありそうな終わり方。

早稲田松竹ペドロ・アルモドバルの『トーク・トゥー・ハー』と『ジュリエッタ』の二本立てを観た。『トーク〜』は昔映画館で観て感銘を受けたのだが、細かいところは忘れていた。改めて観てやっぱり胸がいっぱいになった。切ない愛の物語。最初と最後に出てくるピナ・バウシュの舞台もいい。『ジュリエッタ』は、母と娘の物語。こちらは『トーク・トゥー・ハー』に比べるとスケール感が小さいが、ゆっくり染みてくるような映画。若いころのジュリエッタが奔放で素敵。スペインでは電車とかエレベーターとかで一目見ただけで恋に落ちたりするんだなー、とか思った。恋愛に対するハードルが低い。

グザヴィエ・ドラン監督『たかが世界の終わり』。死を前にした主人公が、それを告げるために12年前に飛び出した実家に帰る。そこで家族の諍いが起こる。結局主人公はなにも言い出せず、彼が12年前に家を飛び出した理由もはっきりとはわからない。ストーリーがなく、もやもやした終わり方。でもこの映画はストーリーを見せるのではなく、ある時間の家族の会話を延々と描いている。母や妹は張り切ってメイクして主人公を迎えるが、兄は始終苛立ち、すべてをぶち壊しにする。ところどころに入る回想シーンの映像や音楽がドランらしくかっこよくて痺れる。はっきりと描かれてない部分を勝手に想像したり、いろんな解釈ができそう。家族の言い合いの場面はいろんな意味で痛かった。言いたいことポンポン言ったら家族なんて成り立たないんだよ。理解できないのが当たり前。でも家族だから理解したくて言い合ってしまう。ヒリヒリ。

早稲田松竹で『オーバー・フェンス』と『永い言い訳』の二本立て。『オーバー・フェンス』は思ったほど重くはなく、普通に良い映画だった。オダギリジョーが爽やかすぎたのか、あまり鬱屈した駄目男には見えなかった。そもそも函館の職業訓練校にいろんなイケメンがいるって時点でリアリティがない。蒼井優はエキセントリックでコケティッシュな女の役を上手に演じていたけど、彼女はこういう役が多い気がする。それほど驚かないというか。『永い言い訳』はすごいよかった。本木雅弘の演技が、嫌な奴なのになんか茶目っ気があって、人間的で憎めない。妻にはあんなに不機嫌だったのに、子供の前だと「良いおじさん」になっちゃったり。妻を失った傷や、それまでの妻との関係のストレスが、自分でも気づかないところで大きくなっていたのか。傷を受けたときの人の反応はほんとに様々。ストレートに悲しみを表せる人はむしろ幸せなのかも。この主人公は、悲しくもなく、泣けずにいて、でもすごい喪失感とか自己嫌悪とか様々な感情がごっちゃになっていて、自分が今どんな感情を持っているのかよくわからなくなっている。そんな状況に陥ったときこそ、人の本性が出るのかもしれない。子供二人、特にお兄ちゃんの演技がすごくよかった。撮影で実際に一年くらい時間が経って、髪が伸びたり顔つきも大人になったりしているけど、演技はぶれない。子供たちの熱演がなかったら、この映画の成功はなかった。

パク・チャヌク監督『お嬢さん』。先の見えないサスペンス、壮絶な騙し合い、女同士の官能……というとシリアスなようだけど、いたるところで脱力した笑いが起こってしまう。一言で言えば変態コメディ(笑)。SMとかフェチとか……もう、みんな好きよね〜、という、ぶっ飛んだ映画。カネと性のみ追い求める男の間抜けなこと。一方、欲に振り回されない女は自分の気持ちに正直で、強かで純粋。スカッとするストーリー。女優二人ともよかった。令嬢役の女優は松たか子に、侍女役の女優は安藤玉恵に似ている。日本統治下の朝鮮を舞台にしているから、日本人という設定の登場人物もいるし、皆日本語を話す。しかしそれがカタコトなので、なんか笑えてくる。朝鮮語なのに卑猥な単語だけ日本語だったり、カタコトの日本語で荒唐無稽な官能小説を朗読したり……なんか脱力する。深刻なサスペンスだと思って観に行ったのに、最初のほうはやたら大掛かりなわりに妙にB級ぽい感じで、なんだかヘンな映画だなあと思いながら観ていた。でも第1部の最後の急展開、その後の視点を変えた第2部、あの構成はすごい。ネタバレできないので、とにかく観てと言いたい。

キム・ギドク監督『STOP』。原発事故についての映画なのだが、B級感溢れるトンデモな内容。それでも本人もキャストも大真面目にやっているのだろうというところがすごい。いろんなツッコミどころがありすぎる。それを狙ってやってるのかと思えば単に雑なだけかとも思えたり。ある夫婦の話で、最初から現実離れしているのだが、それがどんどん暴走していく様がすごい。福島のシーンはもう悪趣味というか。聞けば10日間しか撮影時間がなく、監督は10日間ほとんど寝ずに撮ったという。確かにそんな極限状態でしか撮れない映像だと思う。だからこその鬼才。今日は上映後に出演者の舞台挨拶があった。この映画の収益は福島や熊本に寄付され、出演者はほぼボランティアで、主旨に賛同した人だけが出ているのだという。監督も役者もスタッフも、この映画を撮ることでなにか社会に貢献したい、という純粋な気持ちを持っている。そこには打たれる。

美女と野獣』。エマ・ワトソンが可愛く、歌も全曲よかったし、映像もすごくて楽しめた。でもなぜベルが野獣を愛するようになったかがよくわからなかった。命を救ってくれて本のことを教えてもらい家族の話ができて心が通じ合い、尊敬し好意を持っても、そこからすぐ「愛してるわ」となるかな?

『メッセージ』。SFだけどヒロインの個人的な人生の物語を描いており、ミステリーっぽくもある。途中ですべてが「あ、そうか!」とわかる瞬間があり、震えた。「時間の流れ」がなくなるって、どういう感覚なのか想像できないな。

『淵に立つ』。凄かった。残酷な話で、いろいろ謎なまま終わるのですっきりとはしないのだけど。夫婦の心の闇みたいなものがリアルで、じわじわと嫌な気持ちになる。特に古舘寛治さん演じる夫は……。妻役の筒井真理子さんがとても美しいので、8年後の彼女の変化がすごすぎて目を見張った。

『セールスマン』。舞台役者をやっている夫婦が、引越し先でトラブルに見舞われる。何者かが部屋に侵入し、妻を襲ったのだ。妻は気絶し大怪我を負う。夫は警察に言おうとするが妻は拒む。二人が演じている『セールスマンの死』の一場面が出てきてそれとリンクするかのように物語が展開していく。暴行事件に対する男女の感じ方・行動の違い、これは日本でもあることだと思う。だがこの映画では妻が、問題解決のために積極的に動こうとせず感情に流されているように見えた。それは男性社会ゆえこういう場合どうすればいいのかという知識が女性側に不足しているからかなと思った。

『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン世界一優雅な野獣』。セルゲイ・ポルーニンの少年時代から現在までを追うドキュメンタリーで、家族にもインタビューしておりかなり見応えがあった。ダンスは圧巻。まさに「優雅な野獣」そのもので、ゾクゾクした。今の状態をただキープするのではなく、捨ててまた一から始める。常に自らに問い続ける。そんなことをやり遂げるには血の滲むような努力が要る。踊り終わって「クタクタだ」と言って座り込む姿に胸が痛くなった。どれほどの想いが、どれほどの苦悩があるか。

イザベル・ユーペール主演映画『ELLE』。レイプ被害に遭いながらも通報もせず騒ぎ立てずに平然としてるヒロイン。レイプ犯からの嫌がらせは続き、彼女は次々酷い目に遭うのだが、それでも平然としてる。このタフさの背景には彼女の過去のトラウマが原因の異常な性衝動があった。ヒロインはゲーム会社の社長でバツイチだが元夫とも交流しているほか、同僚の旦那と不倫中。息子はもうすぐ結婚して孫が生まれる。そして父親は獄中におり、母親も問題を起こしている。なんかあまりにもいろんなものを背負いすぎていて、生活も派手だし、まったく自分と接点がなくわからない。生きているだけで次々いろんなことが降りかかる人生って大変ねと思った。自分は今、すごくシンプルに生きてるけど、そのほうが楽でいいや。この映画のヒロインは過去のトラウマもあり、自分では気づかないまま異常な性衝動がある。確かに彼女は魅力的だけども、そのせいで男性トラブルが。ヒロインは独善的なので会社の従業員とかから恨みを買っていて、レイプ犯の心当たりがありすぎる。誰がレイプ犯か?というところはサスペンスだけど、それがわかってからも話は続くのが面白い。最後の終わり方は、女性への讃歌なのか?

散歩する侵略者』。長谷川博己がこんなにワイルドな役がはまるようになるなんて!色白で線が細いから、10年くらい前までは王子とかゲイとか鬱屈した文学青年みたいな役が多かったのに。今も相変わらず色白で線が細いけど、確実に役者としての逞しさを身に着けた。いい年の取り方してるな〜。この作品、当たり前だけど、イキウメの抽象的な美術でシンプルにやっていた舞台版が一番良い。ほかの劇団が具象美術でやったものも観たことがあるが、中途半端にリアリティがあってちょっと違和感があった。映画はというとまた別物で、これはこれでわかりやすくて悪くはない。

アウトレイジ最終章』。前作、前々作は、とにかくスピーディに話が進んでバンバン人が死んで、なにも考えず頭空っぽになれる爽快感があったのだが、今回はそこまで動きがなくちょっと重い感じで、個人的には物足りなかった。ラストもスカッとしない。殺すシーンの残酷さは好きだったけど。

『アンダー・ハー・マウス』。女性同士の性愛もの。激しいセックスシーンが多く、女優はもちろん全部脱いで体当たりの演技。ストーリーは王道な感じで捻りがないが、女優が綺麗だからいい。特にダラス役の女優がかっこよく、おっぱいも綺麗。そういう見方をすべき映画。

『IT』。スティーブン・キング原作のホラーものだが、幽霊とかではなくピエロだし、「恐怖」の概念が人によって異なるという映画なので、怖さはあまり感じず。むしろ子供たちが皆で「それ」を倒そうという青春ドラマ的になっており、笑えたり微笑ましい部分もかなりあった。

フランソワ・オゾン監督『婚約者の友人』。婚約者を戦争で亡くした女性のもとに現れる謎の男性……男女の機微を切なく繊細に描いた良い作品。カラーとモノクロの使い分けも面白い。でも私はオゾン作品では『17歳』『スイミング・プール』のような刺激的な作品のほうが好きかな。

岸善幸監督『あゝ、荒野』前後篇鑑賞。トータル6時間。ヤバいこれ。凄まじい。後篇のクライマックスは息をするのも忘れるほどだった。憎しみを原動力に生きる新次、臆病で不器用だが愛を求めているバリカン。孤独な人々の魂が繋がるのはリングの上のみ……菅田将暉もヤン・イクチュンも本当に素晴らしい。孤独な人間同士が繋がろうとする姿に泣いてしまう。いくらセックスしても繋がれない。ボクシングで殴り合うことで愛してほしい、繋がりたいと希求する。バリカンの新次に対する複雑な想いにグッとくる。設定を東京オリンピック後の2021年にしたのも素晴らしい。今よりひどくなってる社会で、人々は絶望し生きる目標を見失っている。

ナ・ホンジン監督『コクソン』。怖すぎるし謎すぎる。人の負の部分に強く訴えかけてくる感じで、引き摺られそうになる。

最低。』。AVをめぐる3人の女性のお話。AV撮影シーンのエロさが良かった。母と娘の関係について丁寧に描いていて思いがけず真面目な映画だった。