2015年10月に観た舞台

ロベール・ルパージュ『針とアヘン』観劇。ルパージュの新作。宙に浮かぶ立方体の部屋(星空にもなる)が回転し、そこで俳優が演じる。マイルス・ディヴィスの曲を演奏するトランペット奏者も登場。魔術的な映像で、俳優が空中を飛んでいるように見えたり、部屋から突然消えたり現れたりするように見せている。そういう舞台装置や映像がすごくて、魅入ってしまう。マイルス・ディヴィスやジャン・コクトーをモチーフとし、ケベックから仕事でアメリカに来た男の話を描く。アメリカへの批判的な台詞もあり、文化や民族性の違いといった国際的な問題を描いている。けれど、大切な人と別れたばかりで心に穴が空いている男の個人的な話でもある。鍼とアヘンだけが傷心を癒してくれる・・・という。シリアスなだけではなく、とてもユーモラス。男が仕事で理不尽な要求をされる様や、ホテルで男が隣りの部屋の騒音に対しフロントに苦情の電話を入れるやりとりが笑える。

チーム夜営『タイトルはご自由に。』観劇。SFもの。HPのあらすじを読んだら、今まで観たことのないなにか新しい、ワクワクするような世界が提示されそうで、大いに期待して観に行った。場所は恵比寿ガーデンシネマ。小規模な公演ながら、演劇関係者が結構いて、注目度が高いのだな・・・と、余計に期待が膨らむ。内容は、調査のため、100年もの時間を宇宙船のなかで過ごすことになった人間の男とAIの会話劇。男は退屈を紛らわせるため、映画を観たり本を読んだり、AIと会話したりする。そして最後に地球の映像を受信する。この男のように、調査員として100年間、AIとともに宇宙船で過ごした人間は過去に何人もいた。彼らもまた、退屈を紛らわせるためにいろいろなことをした。ある者は小説を書き、ある者はAIと疑似恋愛を。AIは何百年もの間、そうやって様々な人間たちと接してきたのだ。もちろんAIには実体がない。しかし、話の途中でスクリーンに映像が映し出され、AIが実体化してAI役の女優が登場する。その後は男とAIの会話が続く。「人工知能」という題材やストーリーは面白かったのだが、二人の会話が淡々としており、照明も暗い・・・とあって、途中寝てしまった・・・(私は照明の暗い芝居はほぼ寝てしまうのだ)。SFものとして見ても、それほど目新しいという感じはせず、わりとありがちな話にも思えた。当日パンフと一緒に配布された冊子のマンガが面白い。芝居に出てくる男以外に、100年間宇宙船で過ごした人間の話が二編。個人的には、SFものは舞台よりマンガとかのほうが想像をかき立てられるような気がする。気が遠くなるような時間を宇宙船で過ごす・・・それは想像を絶する体験だろう。

彩の国シェイクスピア・シリーズ第31弾『ヴェローナの二紳士』観劇。女性役も男優が演じるオール・メールシリーズ。『ヴェローナの二紳士』はシェイクスピアの初期の戯曲なので、ほかの作品に比べるとなにかと粗さが目立つ。ラストは強引なハッピーエンドで、「え?」という感じだし(まあ、ほかの作品も、そんな強引さはあるけれど)。だけど蜷川さんの演出では、そういう戯曲の粗さも含めて「喜劇」としてわかりやすく描いており、観ていて単純に楽しめた。
ジュリア役の溝端淳平くんは、初めての女性役。可愛いし、恋する女の一途さが伝わってきて、目が釘付けに。たけど、ベテランの月川悠貴くんの女性役と比べてしまうと、やっぱり技術的にはいまひとつかな・・・という気がした(月川くんと比べるのも酷なのだけど、やっぱり目がいってしまう)。月川くんはやはりすごい。立ち居振る舞い、台詞の言い方、表情の作り方。どれも素晴らしい。高貴さを漂わせながらも、ちゃんと恋する女性の顔をしている。自分が好きじゃない男のことはこっぴどく振るけれど、好きな人にはとことん一途な女性。蜷川さんがパンフレットで、「オール・メールシリーズになくてはならない俳優」と、月川くんを褒めていたほどだ。
また、この芝居は道化の役割が大きいのも特徴だ。ヴァレンタインの召使のスピードと、プローティアスの召使のラーンス。道化的な二人の掛け合いが面白い。この二人のシーンは、戯曲にない台詞も足されたようだ。これがあることで、一層喜劇としての面白さが増していた。特にラーンスを演じた正名僕蔵さんは、犬を連れての演技が見事。ラーンスが連れている犬は本物の犬だ。お座りとか伏せとか、指示通りにするんだけど、かなりの暴れん坊で、ラーンスの服や手首をくわえたり、ラーンスを引っ張ったりと、動きが激しい。正名さんがそんな犬に翻弄される様は笑えた。暴れる犬に、「痛いよ!」などとアドリブ風な台詞を言ったり。
ラストはベタベタなハッピーエンドながら、祝祭感に溢れていて、気分が高揚した。

サンプル『離陸』観劇。3人の俳優の濃密で官能的な空間。兄と弟、兄と妻、弟と兄の妻、という関係が絡み合う。それはとてもスリリング。兄が弟をそそのかして自分の妻と旅行に行かせたり、その結果弟はまんまと兄の妻と関係を持ったり。兄と弟は異様に濃い関係で、次第に性的なものが顕わになる。最後は、三人が机の上で蛇のようにエロティックに絡まり合う。3人とも身体の動きがなんというかすごく変態的。うねりながら一つになり、高みに行くようなイメージ。3人とも素晴らしかったが、とりわけ兄役の伊藤キムさんは、異質ともいえるような存在感があった。

西沢栄治演出『四谷怪談』観劇。お岩と伊右衛門の話に焦点を絞るのではなく、お岩の妹のお袖、お袖の二人の夫、伊右衛門のことを好きなお梅、お梅のために画策する祖父の喜兵衛など、一人一人のキャラクターや背景をわかりやすく、かつスピーディーに描く。仇討からはぐれてしまった赤穂の浪人たちの姿も生き生きと描いている。いろいろな立場の人が出てきて、仇討しようとしたり横恋慕したり、だましたりだまされたりする。なんか人間って愚かだけど愛しい・・・とか思った。歌舞伎の台詞をリズミカルに言っており、見ていて気持ちいい。役者は皆熱演で、生き生きしていた。伊右衛門役の鯨井康介は、野生の悪の色気を感じさせる。やっぱりこういう悪い男は、いい男が演じないとね。特にラスト、桜吹雪が舞う中の殺陣のシーンはかっこよかった!

ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場『オイディプス』観劇。話がよくわからず前半は入り込めなかったが、後半の演出、装置がすごく、度肝を抜かれた。日本ではこういう舞台はまず観られない。ヨーロッパ演劇ならではの演出や美術を楽しむ舞台。

カンパニー マリー・シュイナール鑑賞。思ってたほど奇抜ではなかった。『春の祭典』はコンテンポラリー・ダンス風。男性も女性も上半身裸で黒のショートパンツ一丁で踊る。肉体美を見せる感じなのだけど、私は後方に座っていたためあまり見えず。やはりダンスは前で観ないとだよなあ・・・。『アンリ・ミショーのムーヴマン』は、スクリーンに映し出される影絵の形に合わせてダンサーが踊るというもの。音楽もよくて、すごく面白かった。ユーモラスな感じ。

革命アイドル暴走ちゃん『Rebirthオーストラリア凱旋ver.』観劇。あうるすぽっとでの上演。公共劇場でできるんだろうかと思ったが、客席、舞台、通路、トイレまでがっちり養生していた。海外での活動を経て密度が濃くなったような。今回は特に水と紙吹雪の量がすごくて、レインコート着てても下着までびしょ濡れに。いつものことなのだけど、なんだか圧倒されて訳がわからぬまま終わってしまった感じ。だけどとにかくすごいパワーで、爽快。SNSにあげようとスマホで撮影していたら(写真も動画も撮影OKなので)いきなり水が・・・。油断できない。スマホは防水しましょう。暴走ちゃんを観ているときはいつも、飛んでくる水やら生物やらに気をとられてしまって、舞台をきちんと観れてない気がする。一度、水とかが飛んでこない状態で、純粋に舞台だけを観たい・・・とか思う。まあ、それだと暴走ちゃんじゃなくなっちゃうんだろうけど。今回は特に、大量の紙吹雪が舞台を舞い、絵として綺麗だった。センターのアマンダ ワデルさんが素敵。顔可愛いし、歌うまくて迫力あるし、胸とかすごくセクシー。はあ。。。あと、女性キャストがみんなスクール水着で踊りまくるシーンが、なんかすごくよかったなあ。若い女の子の、ピチピチした健康的な身体が眩しい。

FUKAIPRODUCE羽衣『橙色の中古車』観劇。深井順子さんの一人芝居。深井さんがキュートでコケティッシュでパワフル。客いじりも絶妙で、すごいコメディエンヌぶりを発揮。話も面白いけど、深井さん個人の魅力で惹きつけられた部分が大きい。話は、アラフォー女(だけど心はフォーティーン)が一人でアルゼンチンを旅する・・・というもので、もうこの設定だけで面白い。しかも、そのアラフォー女を演じるのが、深井さんなのだ!その旅が面白くないはずはない。英語もわからず、海外一人旅も初めてで、右も左もわからぬままやってきたアルゼンチン。最初はホテルに宿泊していただけだけどそのうち周辺を散歩するようになり、おいしいものを食べ、行きずりの若い男とSEX・・・という、ラテンな展開。台詞が面白い。「パンティは、女の国旗!」って(笑)。やがて中古車を手に入れ、南へ南へと走る。この先になにがあるんだろう?この先を見たい!という好奇心が芽生え、どこまでも走っていく女。「自分がこんなにワイルドだったなんて、知らなかった!」というような台詞。ああ、これこそが「生きてる」ってことだよ!彼女の高揚感が伝わってきて、観ているこちらも、「この先なにがあるんだろう?どんなことが彼女を待ち受けているのだろう?」とワクワク。深井さん演じるアラフォー女はどうやらバツイチで、慰謝料などでお金があるらしい。だけど詳しい背景はよくわからない。でも、仕事とか人間関係とか家族とかに囚われずにいきなりアルゼンチンに行っちゃって、行った先で自分の新たな面に気づいたりとかするのはすごく面白い。人間、気の持ち方次第でいくらでも人生面白くできるんだなあ・・・とか思った。後半は一転してポエム的というか、淡々と旅の様子、風景などが語られ、切ない感じに。このあたりからちょっと私の集中力が切れてしまった。中古車を失った後、虚無感に包まれた彼女は「はあー、日本に帰るか・・・」とつぶやく。でもそのあとすぐに、「それとも、南極行っちゃう?」といたずらっぽく笑う。そんなポジティブな終わり方がすごくよかった。

10月の観劇本数は9本。うち3本は海外のカンパニーという、珍しい月。
海外の作品は、観て面白いとかいうよりも、とりあえず観ておこう、というような感じで、よくわかっていないのかも。でも、今ヨーロッパでこういう舞台をやっているんだ、と知ることは大事だし、後になって「あのときこの舞台を観た」ということ自体が貴重な経験になったりもするので、まあいいか。