2015年6月に観た舞台

大森靖子×根本宗子『夏果て幸せの果て』観劇。うーん、イマイチだった…。やりたいことはわかるのだけど、うまくいってない気が。あまり楽しめなかったのは、私が大森靖子という人を知らなかったせいもあるかな。鳥肌実の使い方がすごいもったいない。なんかただのおっさんに見えてしまったよ…。

KAATで『アドルフに告ぐ』観劇。すごかった。手塚治虫の原作がすごく好きなのだが、舞台は舞台でしかできないやり方で表現していて、迫ってきた。オープニングがミュージカル風で、一瞬にしてその世界に入っていける。原作を読んだ人もそうでない人も楽しめるはず。「正義」というものに振り回された3人のアドルフの人生の悲哀、痛みが迫って来る。カウフマン役の成河さんがとにかくすごい。カウフマンは加害者であり、被害者だ。子どもの頃に人殺しを覚えさせられるというのが、なによりひどい。戦争がそういう子どもを生み出してしまう・・・。個人的には、舞台で久しぶりに高橋洋さんを観られてすごく嬉しかった。洋さんのヒトラー、鬼気迫っていた・・・。外見、話し方、身振り。すべてに圧倒された。ヒトラーの恐ろしさ、カリスマ性、そして狂気。そのどれをも表現していた。それにしても、第二次世界大戦から、現在も続く中東紛争まで描いているこの作品のスケールに圧倒されてしまう。ナチスの被害者だったユダヤ人のカミルが、やがて「聖戦」という「正義」のもと、大勢の人間を虐殺する側に回る・・・。それこそ戦争の悲劇だ。親友だったカウフマンとカミルが、戦争によって敵同士となり、互いの家族を攻撃するようになる様は、悲劇としか言いようがない。だけど狂言回しの峠草平は、空襲で耳が聞こえなくなっても、平和を希求し、新しい生命も誕生する。そこに一縷の希望がある。国家に洗脳され、自分たちの民族を守るという「正義」を掲げて戦争をする。国家って、民族って、そして正義ってなんだろう・・・。一番怖いのは、誰もが戦争は悪だとわかっていても、知らぬ間にマインドコントロールされてしまうこと。特に日本人は右にならえになりやすい。

木ノ下歌舞伎『三人吉三』観劇。原作に忠実らしく、5時間という上演時間。いろんな人物が複雑に絡む話で、ちゃんと観ていないと置いていかれそうになる。ひとつひとつのシーンは面白く、丁寧に作っていると思った。だけどそのぶん、三人の吉三の印象が薄く、盛り上がりに欠ける。『三人吉三』は、昔コクーン歌舞伎勘三郎が出ていたやつを観ていて、すごく面白くて興奮した。あれはすごくわかりやすく翻案していて、スピーディだった。三人の吉三がとにかく魅力的で、演出もえらいかっこよかった。木ノ下歌舞伎もコクーン歌舞伎も、普通の歌舞伎とは違うものを目指している。好みにもよるだろうけど、歌舞伎初心者にはコクーン歌舞伎のほうがわかりやすい気がする。木ノ下歌舞伎は前作『黒塚』が、歌舞伎を現代っぽくスピーディに描いていてとても面白かったのだが、今回はあまり乗れなかった。

青年団『新・冒険王』観劇。日韓W杯の韓国とイタリア戦をやっている時間、イスタンブールの安宿に宿泊している日本人と韓国人のバックパッカーのやりとりを描く。わずかな時間で、日韓の問題が浮き彫りになる。本当に上手いとしか言いようのない設定・脚本。あざといくらいに上手い。登場人物一人ひとりの背景や個人的な関係性。そして様々な国の歴史、国同士の関係、そこから導き出される個人の感情。とにかく提示される情報量が半端ない。日本語、ハングル語、英語が入り混じり、字幕も入る。どの国も、戦争で虐殺したり侵略されたりという、忘れてはならない歴史がある。無知であるということは、ときに知らぬ間に他者を傷つけることになる。私自身、昔歴史の教科書で習ったきりで、詳しく知らないことが多い。自分たちの国が他国に対してなにをしてきたのか。それを知ろうともしないのは、傲慢なことであるかもしれない。平田オリザは当日パンフで、「日本はまだ、アジア唯一の先進国の地位から滑り落ちたことを受け入れられない。韓国はまだ、先進国の仲間入りをしたことに慣れていない」と書いている。私も、知らず知らずのうちに「自分たちの国はアジア唯一の先進国だ」という意識を持っていると思う。日本が今となっては韓国や中国に追い上げられているように、世界は刻々と変わりつつある。その変化を受け入れると同時に、過去の歴史を知ること、忘れないことが大切なのだろう。日本人同士でも分かり合うことは困難なのに、違う歴史や文化を背負った外国人と分かり合うことは難しい。だけどラストシーンを観て、分かり合えないながも互いを知ろうとすること、まずはその国の言語を知ろうとすることで、ささやかなコミュニケーションの一歩が開かれるのだなあ、と希望を感じた。

6月の観劇本数は4本。なんかこのくらいが普通になってきてしまった。。。
アドルフに告ぐ』『新・冒険王』がよかった。