2015年4月に観た舞台

シアターコクーンで『禁断の裸体』観劇。ブラジルの劇作家ネルソン・ロドリゲスの戯曲を、三浦大輔が演出したもの。私は事前に戯曲を読ませていただく機会があったので、すんなり劇世界に入り込むことができた。登場人物は皆やたらと激しく欲望剥き出し。セックスセックスと連呼する様には笑ってしまう。役者は皆体当たりの熱演。特に娼婦ジェニーを演じた寺島しのぶがよかった。奔放でわがままで男を振り回すジェニーだが、寺島しのぶの台詞の語尾がなんだか可愛らしくて、嫌な女という感じがしない。さびしくて、生きるのに不安を抱えているジェニーの悲しみややり場のなさが迫ってきた。内野聖陽は不器用な男の役がはまっている。父親としてこうあるべきだと思いながらも流されていく様は、愚かで情けないのだけど、内野さんが演じるとそんな男がすごくセクシーでチャーミングに見える。おばを演じた池谷のぶえはコメディエンヌぶりを発揮。木野花の大げさな演技も笑えた。特に一幕の終わりの、「あの子は、インポテンツなのよ!」と木野花が絶叫するシーンは、演出もやりすぎなほどわざとらしくて、爆笑してしまった。三浦さんらしいなあ、と思った。榊原毅は、出番は少なかったが、その身長の高さと存在感で異彩をはなっていた。声もすごく通る。大劇場でも十分やっていけるのでは。ラストシーンは、戯曲には書かれていない、三浦さんが作った部分だという。舞台に女性の裸体の画像が広がっていき、その胸の部分が強調される。内野さんがピストルでその胸の部分をバンと打ち、すると画像がバラバラになって暗転。とにかくかっこいい終わり方で痺れた。乳癌を異常に恐れているジェニーのことを表している。舞台装置がすごく象徴的。この戯曲は、背景に宗教問題も絡んでいるが、そういう部分はなかなか日本人にはわかりづらいだろう。だけどこの舞台装置を使うことで、それを感覚的に伝えることに成功しているように思えた。とにかく見応えのある舞台。人間の本質をきっちり描いている。

さいたまネクスト・シアター『リチャード二世』観劇。面白かった!さいたまゴールドシアターの方々も出演していて、冒頭から若者と老人を対比させ、蜷川さんが今伝えたいことがわかりやすく描かれていた。長生きで元気のいい老人が増えた一方で、若者の元気のなさが取り沙汰されている昨今だけど、若者だって目に見えないところで頑張っているのだ。台詞もとても美しい。話もそんなに複雑じゃなくて、歴史劇にしては見やすいのもよかった。衣装などに和のテイストを用いたり、車椅子を効果的に使ったりなど、アイデアが盛り沢山。演出もすごいのだけど、やはり役者が半端ない。タイトルロールの内田健司は、前回の『カリギュラ』も凄まじかったが、今回もまたすごかった!不遜ななかにもどこか儚さを感じさせる王。自分本位だが繊細で危うくて、人を惹きつける独特の魅力を持っている。王位を奪われ、幽閉されたあげく殺される…というリチャードの運命の過酷さ、悲しさを、内田健司はその細い裸体で表現。穏やかで物哀しい声で発せられる長台詞は、うっとりとしてしまうほど美しいのだが、覚悟を決めた人間の固い意思が伝わってきた。内田健司の瞳はミステリアスに潤い、彼独特の表情を作り上げている。なぜこの人は、こんなに人を惹きつける力があるのだろう。なんとも言えない不思議な色気がある。今回は特に、全体的にゲイっぽいテイストだったこともあり、より彼の中性的なセクシーさが出ていたような。ほかの役者も皆素晴らしい。舞台の使い方が蜷川らしく大胆で気持ちいい。男同志のタンゴもすごくよくて、キュンキュンした。蜷川さんは、女性が萌えるツボを押さえてるなあ、といつも思う。今回、蜷川さんがなにを意図してゲイっぽい要素を出したのかはっきりとはわからないが・・・。

Co.山田うん七つの大罪』『春の祭典』鑑賞。『春の祭典』を観るのは2回目だが、やはり鳥肌もの。13人のダンサーが、最初から最後まで全開でとにかくエネルギッシュに踊りまくる。群舞で動きも決まっているのだが、ぴたりと揃っているというよりは、一人ひとりが自由にのびのび踊っているよう。

財団、江本純子『売るものがある性』観劇。江本さんの私的なことを描きながらも、普通のストーリーにするのではなく、エピソードを重層的にからませ、一人の人物を複数の役者が演じたりなどしていて、最後まで緊張感を保っている。なんだか毛皮族をやっていた人とは思えない・・・。すごいギャップ。いろんなテーマが詰め込まれている戯曲。先祖をさかのぼるって、面白いな。自分のルーツを探ることでもある。劇団の話は実話なのかも?と思わせ面白い。女優じゃなくても、女性は「ババアになる」ってことから、抗わなければいけないのか。ババアになるのは悪いことなのか、とか。バイト先のパン屋で先輩オバサンにあれこれ理不尽なことを言われながら仕事を教わる・・・というエピソードが出てくるが、それって会社でもやはり新人は上司にあれこれ理不尽なことを言われながら仕事を教わるわけで、社会ってそういうもんなんだよなあ、とか思ったり。今回、出演予定だった長田奈麻さんが体調不良で降板となり、その代役を頼んだ安澤千草さんも降板して、江本純子が出演していた。私にとってはもちろん江本さんが出ていたほうが断然いい。江本さんが出てないのは淋しい。江本さんはやはりかっこいい。その生き様がかっこいい。毛皮族ではちゃめちゃなことをやっていた江本さんが私は大好きだったけれど、今の落ち着いた感じの江本さんもやはり魅力的だなと思った。素敵な人はやはり素敵なんだな。年齢とか外見とかじゃなく、生き方なんだよな。「だからババアになっちゃうんだよ」という台詞がたびたび出てくる。「ババアになる」って、単に年齢や外見や仕草のことだけじゃなく、生き方のことなのか な。いろんなことを諦めてしまって、自分に甘くなってしまう、それを年のせいにするのはやばいんじゃない?ということなのかも。朝日新聞のインタビューで、「変わることを受け入れようとしない人」を「ババア」として描いた、と言っていた。変わらないよさもあるけれど、とも。劇中でも、劇団員が「なんで変わらなきゃいけないの?」みたいなことを言うシーンがある。私は思うのだが、「変わりたくない」と思っていても、周りはどんどん変わっていく。お気に入りの店がいつのまにかなくなっていたり、ITがどんどん進化していったり、政治も思いもせぬほうへ行ったりしている。そんななか、自分だけが「変わらない」ことなんて土台無理なのだ。これは江本さんの話であり、そのお母さん、さらに先祖にまでさかのぼった話なのだけど、すごく普遍的なテーマだと思った。人が生きるってどういうことなの か、を描いている。自分のルーツはなんなのか、社会に出るってどういうことなのか、そして、年をとるってどういうことなのか。そんなことについて考えさせられた。

4月の観劇本数は4本。今月は、観た舞台すべてよかった!