2014年12月に観た舞台

城山羊の会『トロワグロ』観劇。面白かった!何気ない会話がどんどんシュールな方向へ。でもそのズレ加減が絶妙。人の密かな欲望や嫉妬を匂わせつつ、あるあると笑える。平岩紙ちゃんの魅力がよく出ていた。石橋けいさんもとてもいい。古屋隆太さんはやはり…笑。そして、この終わり方、好きだな〜。

イキウメ『新しい祝日』観劇。ふと、「自分の人生はこれでよかったのか?」と思ってしまうことは誰にでもあるだろう。自分の思う通りに生きているつもりでも、実は役割を演じているだけなのかもしれない。いつものイキウメのような深みはあまりないが、これはこれでわかりやすくていいと思った。

ニック・ペイン作、小川絵梨子演出『星ノ数ホド』観劇。「ありえたかもしれないほかの可能性」を見せるため、鈴木杏浦井健治が何度も同じシーンを演じる。演じるたびに少しずつ台詞や行動が変わり、それによって関係が変化する。でも結局どの道を選んでも最後はひとつ。・・・というような話。「もしあのとき違う道を選んでいたら」ということを並列で見せるパターンは、映画でもよくあるし、最初はそういう軽い感じで観ていた。だけどこの芝居の テーマはそんなことじゃなく、すごく重い。伏線を張り巡らした戯曲が深く、圧倒された。鈴木杏の役が物理学者なので、物理学の話が出てくるが、それが重要なポイントとなる。興味深かったのは、「人間は素粒子でしかない」という台詞。自分の意志で選択し、行動しているつもりでも、物理学的にはそれは全部法則に従った行動でしかない。人間はあらかじめ決められた枠のなかで右に左に動いているだけだと。そう考えると、むしろこの芝居は、「この世界は無限の可能性にあふれている」けれども、それは人間にとってたいした意味はなくて、どのみち同じこと、と言っているような。鈴木杏の辿る運命も、そう感じさせる。そして最後は、過去、現在、未来という時間の観念も超えてしまう・・・。

パルコ・プロデュース『ブエノスアイレス午前零時』観劇。予想外にすごく面白くて、観に行ってよかったと思った。舞台装置も豪華だし、出演者たちが素敵な衣裳をつけてタンゴを踊っているシーンの視覚的なかっこよさといったらない。音楽の入り方も相当かっこいい。「総合芸術」だ、まさに。原作は未読だが、蓬莱竜太による脚本がすごくいい。恐らくかなり演劇的に変えられている。蓬莱自らパンフで「新しい作品として書いた」と語っているし。脚本も面白ければ演出もかっこいい。役者もメジャーな人だけでなく小劇場系の人も多く、どの人もとてもいい。新潟と福島の県境のひなびた温泉と、ブエノスアイレスの娼婦のいる酒場を行ったり来たりして、同じ役者がそれぞれ二つの場面に出ているのだが、その配役が絶妙。二つの場面それぞれで、似たようなシチュエーションで似たような台詞を言ったりする。よく練られた脚本。そういう構造上の見事さもさることながら、やはり圧倒されるのは役者たちだ。どの人もそれぞれのままならない人生を生きている。そんな人生を忘れるかのように、皆狂ったようにタンゴを踊る・・・。その刹那の感じが、現実逃避なのだけど、美しくて。でもやっぱり現実に戻り、「自分はなにを求めているのか、なにをしたい人間なのか」と自らに問う。でも簡単に答えは出ず、宙ぶらりんなまま、「もう少しここにいよう」と。普遍的なテーマだ。森田剛演じる、純粋さゆえ虐げられるニコラスが、すごくいい。訴えかけてくる。出演者がタンゴを踊るシーンが出てきて、それが大きな見どころ。森田剛のタンゴもすごくかっこいい。だけど一番目を見張ったのは瀧本美織。プロのダンサーか?と思うほど動きのキレがあり、ものすごく美しい。華奢な身体で、細い手足を激しくなまめかしく動かす。特に後半の瀧本美織は神がかり的な美しさ。男への無償の愛、犠牲・・・。重すぎるものを背負いながらも、なお凛として美しい。長いストレートの黒髪、真っ白な肢体、挑発的に踊る姿・・・もう目が離せなかった・・・。

チェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』観劇。すごい面白かった!超ポップ。チェルフィッチュを初めて観たときに感じた興奮が蘇った。『現在地』以降、少しテーマ性の強いほうに行っていた感じが個人的にしていたが、今回は良い感じに脱力してて、それでいて鋭い批判性もあって。役者はどの人もよかったが、太田信吾さんのユルユルしまくった細やかで軽やかな動きに見惚れた。なにこの浮遊感。泳いでるような溺れそうなような。フラフラと危うさを感じさせる。それでいてコンビニ店員のやるせなさみたいなものも滲ませる。悪意まではいかないけど、鬱屈したもの。

劇団桟敷童子『体夢─TIME』観劇。今までにない設定・演出。最初は面白く観ていたが、途中の展開がやや強引だったりで集中力続かず…。

芸劇+トーク 異世代リーディング『自作自演』(平田オリザ×三浦大輔)を聴いた。世代の異なる2人の劇作家がそれぞれ自作を朗読し、休憩をはさんでトークする、という企画。オリザさんも三浦さんも普段は舞台には出てこず、人前で朗読する機会はないから、すごく興味深かった。三浦大輔は『愛の渦』『人間♥失格』『裏切りの街』の一部分を、平田オリザは『東京ノート』『転校生』の一部分を朗読。三浦さんがすごくうまくてびっくりした。登場人物の男の「ああ・・・はい」みたいな台詞をにやけながらしゃべる。この役はほんとに三浦さんのなかから出てきたんだな。平田オリザは淡々と朗読。朗読しながら、この戯曲が海外でどのように上演されたか、どう受け入れられたか、ということも話していて、興味深かった。岸田賞は実は最初『転校生』がノミネートされたけど、『東京ノート』じゃないと受賞できないと思って自ら白水社にかけあったという話とか。二人のトークも面白かった。二人の作劇の共通点や異なる点、それぞれのやり方、など。オリザさんはさすがに海外でもいろいろやっているだけあって話が深い。一方三浦さんは、(表現したいことがなくなると)自分のしんどかったことを書く、それも含めて評価されているのではないか、と自作を分析。今後の予定も。オリザさんの『幕が上がる』は話を聞いたらすごく面白そうだ。三浦さんがシアターコクーンで演出するという翻訳劇(内野聖陽主演!)も楽しみ。世代も方向性も異なる劇作家が、自作を朗読しつつトークする・・・って、面白い試み。飴屋法水×江本純子の回も面白そうだ。

12月の観劇本数は7本。
ベストワンはチェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』。