2014年11月に観た舞台

唐組『紙芝居の絵の町で』観劇。私は2006年の初演を観ていて、そのときはすごく面白かったのだが、今回はまったく楽しめず。理由は明白。唐十郎が出ていないから。久保井研の演出はメリハリがなく地味。若手俳優たちは頑張っていたけれど。戯曲も長くわかりにくい、というかわからない。なんかもう唐さんの芝居の面白さがわからなくなってきたかも・・・。寒かったし、集中力が持続せず。疲れた。

月影番外地『つんざき行路、されるがまま』観劇。最初は面白く観ていたが、途中でファンタジーっぽい展開になってからなんかつまらなくなり、寝てしまった。福原さんの詩的なセリフを語る役者、ことに粟根まことはよかった。口笛も素敵。でも私はもっとリアルな月影を観たい。

F/T14『透明な隣人〜8-エイト-によせて』観劇。2009年にカリフォルニアで二組の同性カップル同性婚の合憲性を主張して勝訴した。この裁判を脚本家ダスティン・ランス・ブラックが朗読劇にしたのが『8-エイト-』。この作品は、それをベースに西尾佳織によって書かれたもの。どんな人も、それぞれ悩みを抱え、ときに他者に振り回されて悶々しつつも、他者を求め愛して生きている。描かれているのは、そんなすごく当たり前のこと。同性婚の是非とか、セクマイを認めるとか認めないとか、そういう単純な話じゃなくて、そこはむしろどうでもいい、よくないけど。別にセクマイだから特別大変なわけじゃなくて、皆それぞれ大変なのだ、人を愛したり生活をともにしたりするということは。つまり、セクマイが特殊というわけではないのだ。現実に起こっていることや当事者の状況はもちろん踏まえつつ、西尾佳織はその先まで描いている。だって、ただ「起きていることの是非を問う」なんていうのをやっても、面白い演劇にはならないからね。それを演出家がいったん解体して再構築し、さらに役者の生が入り、演劇になる。シリアスなテーマのはずなのに、なんかとぼけてるようでもあり、役者も結構ノリノリでやってる感じが伝わって来て、なんかただもう笑うしかないという感じのシーンも多く、とにかく面白い、ぶっ飛んでる。ホンも演出もすごいのだけど、役者がまたすごく面白い。なかでも松村翔子がすごい面白く、見入ってしまった。ちょっとこじらせ女子っぽい感じ?(この言葉を安易に使うのは嫌なんだけど)。彼女が紹介された男と会うために必死にメイクしてオシャレな服に着替える様が、すごくコミカルで面白かった。そしてバーで男と会ったはいいが、その男がゲイで、男の恋バナを聞かされる羽目に。そこでなぜかいきなりダメ出しをはじめたり。面白すぎる!いやこのシーンはメインではないんだけどね。あと野津あおいの、ちょっと小悪魔的な感じもよかった。

白神ももこ演出・振付『春の祭典』観劇。面白かったー!『春の祭典』がこんなことになるなんて・・・。『桃太郎』や歌舞伎を絡めた白神さんのユーモラスな演出と、毛利悠子さんが手がけた廃棄物や埋め立て地をイメージした独特の美術、そして宮内康乃さんの呼吸や声で作り出す音楽。なかでも、最初にバンといきなりエキストラが大勢舞台に出てきて、『春の祭典』を日本のお祭りみたいに「ほーっ!」と踊る様が、超かっこよく、賑やかで、上がった。ああ、ぶっ飛んでるなー。『春の祭典』を使ってめちゃくちゃ遊んでる感じ、すごくいいな。

テアトル・ド・アナール『トーキョー・スラム・エンジェルス』観劇。今より少し先の日本。景気が後退し格差が広がり、貧困にあえぐ民衆はデモ活動をしている。なんか日本の未来をリアルに見ているようで暗い気持ちにもなったが、希望も感じさせる。ある家族の物語を軸にした経済の話。しかし普通にストーリーが展開されるわけではなく、途中で落語とかいろんな要素が入る。正直、普通にやってくれたほうが心に響くのではないか・・・とも思った。だけどテーマはすごく伝わってきた。お金ってなんなのか、なんのために仕事しているのか。資本主義社会の仕組みはどうなっているのか。山本亨演じるラーメン屋の頑固おやじは社会の仕組みにあえてはまらないが、それが正しいわけではない。ラーメン屋のおやじは、「変わる」ことを受け入れようとしない。しかし、自分は変わらなくていい、変わりたくないと思っていても、周りはどんどん変わっていくのだから、ある程度それに合わせていかないと生きていけないのだ。破綻した社会でも、人は生きていかないといけない。そのためには自分なりの物差しを持たないといけない。人によってはそれがお金だったり仕事だったりするだろう。ラーメン屋にとっては「うまいラーメンを作る」というシンプルな信条だ。破綻した社会で「お金」を物差しにして生きることは危険なことだ。「仕事」にしても、ある日突然なくなってしまうかもしれない。確かなものなんてなにもない。あるのは自分自身だけ。そこでどれだけ踏ん張れるか。闘うのか、降りるのか。踏ん張って闘い続けようとする人もいれば、醒めた目で社会を見、闘いから降りる人もいる。社会に異議を申し立てるためテロリズムに走る者もいる。荒廃した社会に生きる人々は絶望と諦念からさらに自らを荒廃させていく。しかし、どんなひどい世界であっても、どっちみち生まれてしまったからには人は生きねばならない。だったら少しでも未来をよくしたい。そのために行動したい。そういう前向きなメッセージを感じた。

Co.山田うん『ワン◆ピース2014』『十三夜』鑑賞。素晴らしかった。『ワン◆ピース2014』は男性ダンサー7人のダンス。ストイックなまでに極限の身体を見せる。人間の身体ってこんな動きもできるんだ、という驚きと楽しさ。ストイックななかにある遊び心。なぜこんな振付ができるのだろう・・・。『十三夜』のほうは、ダンサーたちが詩情豊かに美しく踊り、遊ぶ。幻想的な感じもするし、ストーリー性があるのでエンタメっぽくもある。ひとつひとつのシーンが美しく絵になっており、音楽や照明もすごくよくて、とにかくずっと見ていたいという感じ。女性ダンサーの動きの美しさに見とれる。どのダンサーもテクニックがすごいのだが、さりげなく見せている。ユーモラスだし、すごくセクシー。強く主張しているわけではないのに、ちゃんとその人なりの個性が出ている。自分を、身体を見せるのがすごく上手い。

毛皮族+あうるすぽっとプロデュース『じゃじゃ馬ならし』観劇。シェイクスピア江本純子流にアレンジ。かなり翻案されていた。現代風にアレンジされているのだが、いろんなもののパロディが入ったりして、全体的にガチャガチャしており、観ていてしんどい。原作を知らない人はそもそもどんな話なのかわからないかも。原作のよさも生かされていないし、かといって毛皮族っぽい面白さもない。中途半端すぎ。どうせならもっとぶっ壊してくれたほうがよかったのかも。あと江本さんの出番がないのがすごく残念。せっかく出てきたと思ったら一瞬で去ってしまう。一体なにを狙ったんだかわからなかった。毛皮族に江本さんが出ないと、スパイスがない。役者は柄本時生佐久間麻由、そして柿丸美智恵がよかった。

Doosan Art Center+東京デスロック+第12言語演劇スタジオ『カルメギ』観劇。チェーホフの『かもめ』を日本占領下の朝鮮を舞台に翻案。まずこの戯曲が素晴らしい。そして、この戯曲に様々な意味を込め、多様な解釈を促す演出には、演劇の持つ豊かさと、異文化への懐の深さを感じた。

燐光群『8分間』観劇。ホームと車両の間に落ちてしまった女性を、乗客らが自主的に降車して一致団結して救出したという実際にあった出来事をもとにした話。その8分間の救出劇が何度もループされ、繰り返されるごとに微妙に違う展開に。痴漢騒ぎや自殺未遂などの事件が起き、複雑になっていく。何度も同じシチュエーションが繰り返されるなかで、徐々に細かい真相が明らかになっていく。たとえば痴漢を疑われた男性は、被害を訴えた女性が車内でものを食べたり携帯で話したりしていたことに不快感を覚えていた・・・など。電車のなかで起こる様々なトラブルを描いている。やがてそれは電車内の問題だけでなく、そこに登場する一人ひとりの話になっていく。コンビニの店長、コールセンターをクビになった男、盲目の女・・・。行き場のない人たち。人生に絶望して電車に飛び込もうとした男を止められるのか。その男は人生を「生きる」と決断するのか・・・。スリリングなヒューマンドラマとなっていた。

11月の観劇本数は9本。
ベストワンはF/T14『透明な隣人〜8-エイト-によせて』。