2014年10月に観た舞台

good morning N°5『秋の、死んで貰います祭り!!地獄の三本同時上演』の『愛欲の乱』観劇。すごく面白かった!オープニングの歌&ダンスがかっこよくてテンション上がる。女優さんたちの捨て身な演技がすごい。小椋あずき、野口かおるが特にすごかった。藤田さんは今回は大人しめ?

野田秀樹作、藤田貴大演出『小指の思い出』観劇。話がわからなかった…。私はNODA•MAPから野田さんの芝居を観始めたのだが、夢の遊眠社の頃はこんなに複雑な芝居を書いてたのか。。野田さんは、スピード感と言葉遊びと役者の並外れた身体能力でもって、わからないけど物凄い舞台を作り上げた。藤田貴大は、全然違う方向からアプローチしている。スピードはむしろ減速。舞台の使い方、美術、音楽はすごくて、素晴らしい舞台なのだろうなとは思ったが、どうしても乗れないまま終わってしまった。野田さんの芝居というより、藤田さんだけの世界になっていた。良くも悪くも。

『炎アンサンディ』観劇。恐るべき戯曲。レバノン戦争の話で、現在と過去を行き来する構成なので、もっと難解かと思っていたが、シンプルでわかりやすい効果的な演出で、すっと作品世界に入っていけた。死んだ母の遺言に従い、亡くなったはずの父と、存在すら知らなかった兄を探す旅に出た双子の姉弟。双子の姉弟が、モントリオールから中東まで旅をして、おぞましく目をそむけたくなる真実に辿り着く後半は緊張感に溢れている。その残酷さには、沈黙する以外にない。双子の旅と同時進行で、双子の母・ナワルの凄まじい生涯が描かれる。双子は母の過去をなにも知らなかった。ナワルは子供たちになにも真実を知らせず、自分の過去についても語らず、ただただ沈黙していたのだ。ナワルを演じた麻実れいの説得力のある演技で、ナワルのすさまじい生涯、そして戦争、復讐の連鎖が生む悲惨さが生々しく迫って来る。毅然と戦争に立ち向かうナワル。極限状態にあっても尊厳を保つこと、それこそが人間であることの証なのだ。とにかく深くて豊かな戯曲だ。戦争が題材の重い話だが、母の過去を辿る双子、という謎解きの話を軸にしているので、先の展開が気になって引き込まれる。役者はどの人も素晴らしい。特に主役の麻実れいは堂々とした演技で、独白のシーンは泣かされた。理不尽に立ち向かう強さと、母の深さを感じさせる。岡本健一は、複数の役を器用に演じる。ひとつひとつの役を楽しんで、工夫して演じているのが伝わって来る。素晴らしい俳優だ。最後に重要な役を演じるのだが、それがまた素晴らしい。こういう不遜な、けれども弱さを抱えている男の役が、すごく合う。リチャード三世もそうだった。「読み、書き、数をかぞえ、話す。それが自分の身を守ることになる」という台詞がある。確かに、「教育」というものは、人間にとって大切なもの。教育を受けないと、なにが正しくてなにが間違っているのかがわからない。この世について思索することもできない。しかし、戦争という巨大なものの前では、教育を受けている者であっても、まともな判断ができなくなる。人間というものは状況によって恐ろしく残酷になってしまう。被害者にも加害者にもなる。そんななかでいかに尊厳を保つか。

シベリア少女鉄道『ほのぼの村のなかよしマーチ』観劇。今回はこっちか!こういうテイストはこの劇団では初めてなので、ちょっとドキドキしました。シベ少では初めての下ネタ。中二男子の性的妄想が炸裂していて、女性である私はちょっと引いてしまうほど。出てくる女の子たちはどの子も可愛く、「萌え」てしまうのもわかるけど、女の子の若さや可愛さといったものがもてはやされていて、ババアが露骨にバカにされるというのは、ちょっと不快だった。しかし後半、現実の世界の話になり、女たちが実は極道の世界に生きていることがわかり(とにかくそんなとんでもないことの連続なのだ)、ババアだった女がかつらを脱ぎ捨て、セクシーな女になり、女の子たちに逆襲。このあたりは痛快。男ども、そして若い女ども、ババアだからとなめんなよ。女はいくつになっても女なんだよ。

蜷川幸雄演出『ジュリアス•シーザー』観劇。前半は、キャシアスがシーザー暗殺のために、ブルータスを説得して仲間に引き込む様が、後半はアントニーに追い詰められたブルータスとキャシアスが、男女の痴話喧嘩みたいなのを繰り広げる様が面白かった。話自体は有名な話なのだが、台詞が面白い。キャシアスを演じた吉田鋼太郎は、相変わらずダイナミックな演技。後半、ブルータスに対してかんしゃくを起こし、イスやテーブルを倒したり、ブルータスに殴りかかろうとしたりするのに、ブルータスから詫びられるととたんに静かになってブルータスに抱きついたり。自由だ。ブルータスを演じた阿部寛は、長身で濃い顔で、立っているだけで迫力があり、ブルータスの高潔さがよく出ていた。それにしても、大階段で激しく動く役者たち、すごいな…。すごい速さで駆け下りたり。客席通路も役者たちが駆け回ったりするので、ちょっと怖かったりも。

青山円劇カウンシル アンコール『生きてるものはいないのか』観劇。初演も再演も観ていてどんな話かはわかっていたが、台詞の大半を忘れていた。人が理由もわからず次々死んでいくという芝居。一人ひとりの死に方が面白い。しかし、以前に観たときほど面白く感じなかった。こういう不条理な話が面白いと思わなくなったのかも。ストーリーらしいものもなく、淡々としているし。前に観たときは、ストーリーらしいものがないながらも、台詞がすごく面白いと思った記憶があるのだが、今回はそれほどでもなかった。役者に有名タレントとかを使っていて、バランスがあまりよくなかったというのもあるだろう。

キラリふじみレパートリー『奴婢訓』観劇。あまり寺山という感じがせず、多田さんのテイストだった。それにしてもいつもの切れ味がないというか、全体的に少しとっ散らかった印象が。台詞も結構カットされ、残念な気も。「観客を挑発する」というところは、寺山と多田さんの芝居の共通点ではあるのだけど。役者もせっかく糸井幸之介、大川潤子など面白い人たちを引っ張ってきているのに、その良さが出ていないような。髪の毛がある榊原毅さんは新鮮でした。

iaku『流れんな』観劇。平貝漁でなんとかもっている辺鄙な村が舞台。父の介護や妹の面倒などで村から出られない睦美。母の死が自分のせいだと思いつめている。いっぱいいっぱいの彼女を妹が責める。けど妹の言葉も、姉を想ってのことで・・・。その姉妹のやりとりに泣けてしまう。

東京芸術劇場×明洞芸術劇場 国際共同制作『半神』観劇。韓国の役者たちの自由な身体性に目を見張る。特にシュラ役のチュ・イニョンが素晴らしい。正直イ ヤホンガイドというのがよくなくて、台詞がちゃんと入ってこなかったのだけど、それでも双子が切り離されるシーンでは落涙。切なくも美しい。野田秀樹の芝居は身体と同じくらい「言葉」が重要だ。イヤホンガイドにすることで、その「言葉」の良さがかなり損なわれてしまっていたのが残念。韓国語を 理解できれば、相当感動できたはずだ。そのくらい戯曲も演出も役者も素晴らしかった。言葉がわからなくてもその絵だけで涙が出てしまう。

文学座公演『近未来能 天鼓』観劇。『翁』『清経』『天鼓』『松風』『雷電』の5つの序破急を描きながらひとつの物語にしたもの。いろいろ詰め込みすぎて情報過多になっているのでストーリーを追うのが結構大変。だけど場面場面は面白かった。今の日本に警鐘を鳴らしているかのような内容だな・・・。

FUKAIPRODUCE羽衣『よるべナイター』観劇。野球をモチーフに、いつものように男女の劣情や、都会に生きるよるべない大人たちを描く。俳優たちが、最初から最後まで歌って踊って、一生懸命身体を激しく動かして、でも笑顔で汗をかいている。その様を観ているだけで、もう涙が出てしまった。特に『果物夜曲』は素晴らしい。都会に何年も一人で生きている大人たち、そのよるべなさ、さびしさ。切実な歌詞を、俳優たちは明るく踊りながら歌い上げる。そのギャップがあるからこそ、俳優たちがものすごくまぶしくきらきらして見えて、落涙。青山円形劇場でやってくれて、本当に嬉しい。俳優たちの息遣い、汗、全部ダイレクトに伝わってきて、胸が高鳴る。いやらしいことも恥ずかしいことも、照れずに堂々と目の前でやっている。素敵すぎる。この人たちは、なんてかっこいいんだろう。最後、俳優たちが観客に向かって深々と頭を下げ、口々に「ありがとうございました」と言うのだが、「こちらこそ『ありがとうございました』だよ!何倍も何倍もありがとうだよ!」と、胸が一杯になった。

10月の観劇本数は11本。
ベストワンはFUKAIPRODUCE羽衣『よるべナイター』。