2014年9月に観た舞台

ヨーロッパ企画『ビルのゲーツ』観劇。登場人物たちがビルのゲートにカードをかざして開ける。また開ける。さらに開ける。シチュエーションを変えずにここまで面白くできるとは!上田誠さんは、なんでこんなことを思いつくことができるのだろう。くだらなすぎてゲラゲラ笑いつつ、背筋が寒くなったりも。

BATIK『落ち合っている』鑑賞。妊娠・出産を経た黒田育世が、母になり赤子になり、人間以外のなにか大きな存在になる。連綿と続く人間の営みを、生々しく表現しながらも、どこか俯瞰で見ているような。黒田育世の踊りに圧倒される。ここまで真摯に自らの身を削って表現するって、想像を絶する世界。

『官能教育』糸井幸之介×「安寿と厨子王」観劇。糸井さんの語りがとにかくすごい、引き込まれる。子供に本を読み聞かせるような語り口で、母、安寿、厨子 王、乳母、老人・・・と代わる代わる演じていく。落語のようでもある。穏やかな顔でものすごく怖い声を出して、恐ろしいシーンを語る。迫力!そして、語り手である糸井さんが山椒大夫となり、井上みなみ演じる安寿を責め苛む様は・・・へ、変態!SMの世界。責め方の描写がすごく細かく、擬音を交えた糸井さんの語りがただもう見事で。丁寧にねちっこく演出されているから、余計にえげつなさが出ている。そして、そんな壮絶なシーンの合間に入る歌と踊りが絶妙。このシーンでこの詞、この踊りか・・・と脱力してしまう。最後、出世した厨子王が山椒大夫の家来に命じて山椒大夫をいたぶり殺す様も鳥肌もの。竹のこぎりで106回も首を切りつけ、やっと絶命する。

冨士山アネット/Manos.『醜い男』観劇。原作の不条理な面白さを最大限に引き出した、スタイリッシュな演出。映像の処理に痺れる。役者4人が素晴らしい。冨士山アネット/Manos.は演劇に特化したユニットなのだが、ダンス的な要素も入っている。冨士山アネットがやる演劇ってかっこいい!『醜い男』は、以前横浜BankARTシアターでやった公演(TPT関係で池下重大さんがレッテ役)を観ており、それもすごくよかった。とにかく戯曲が面白いのだ。「顔の美醜」をテーマにしながら、アイデンティティが崩壊していく様を描く。顔は醜いけど仕事熱心で真面目だった主人公が、整形して美しくなり、周囲の人々の対応ががらりと変わる。そして本人もいつしか傲慢になっていく。それが悲劇をもたらす・・・。こう書くとよくある話っぽいのだが、この戯曲、後半がちょっとあり得ない展開になって、唸らせられる。

ナカゴー特別劇場vol.13『ミッドナイト25時』観劇。ドタバタしたナンセンスコメディ。くだらないことを必死に暑苦しく演じている役者たちはすごいと思う。しかし私は笑えず…。話が面白くないから入り込めなくて、目の前で役者が面白気なことをやってても笑えない。大袈裟な演技も苦手。

THE SHAMPOO HAT『風の吹く夢』観劇。うーん、いつものシャンプーの切れ味がないというか。場面場面は面白いのだけど、明確なストーリーがない上に、ところどころで 観念的な長台詞が入って芝居の流れが遮断されてしまう。赤堀雅秋の相変わらずのブチ切れた演技はよかった、笑った。

SPAC『マハーバーラタ』観劇。客席の作り、白色の衣裳、小道具、そして珍しい楽器を用いた生演奏。なにからなにまで手が込んでいて、舞台芸術の極みという感じ。影絵や動物など、ユニークな演出も素敵。演者では美加理が圧倒的に素晴らしい。神がかってさえいる。阿部一徳の語りもすごい。

水素74%『コンタクト』観劇。チラシに書いてある通り、ナンパにまつわる話なのだが、別の要素もある。見知らぬ人同士が出会って言葉を交わしたり、なにがしかの関係を築いたりするのって、人間には必要なことだなと思った。他者と出会いたいというのは人間の本能。閉じこもっててもなにも起こらない。

葛河思潮社背信』観劇。洗練されたエレガントな演出に、終始うっとり。人物の動き、音楽の入り方、そして転換の仕方。とにかく素敵。長塚圭史は葛河思潮社で、演出家としてのセンスを大いに発揮している。スタッフワークもとてもいい。抽象的・象徴的な美術、繊細な照明。とても密度の高い空間。ハロルド・ピンターによる、ちょっと謎めいた戯曲もとてもいい。時間が逆行していく構造で、全9場。夫婦の家、男女が不倫をしているアパートの部屋、ホテルの一室、レストランなど、場ごとにシチュエーションを変え、そこで登場人物たちがそれぞれ語り合う。ストーリーは、ロバート(長塚圭史)の妻のエマ(松雪泰子)と、ロバートの親友であるジェリー(田中哲司)との7年にわたる不倫をめぐる、登場人物3人の心情を描いたもの。3人の感情は波のように揺れ続け、各々が言っていることが真実なのか偽りなのかもわからない。ストーリーや構造も面白いが、ストーリーとは直接関係のない台詞がとても面白い。登場人物の職業が作家エージェントや出版社の経営者なので、文学の話や詩的なたとえが出てくる。男の赤ん坊が女の赤ん坊よりよく泣くのは、子宮から出てくるのを男のほうが恐れているからだ、とか。

サンプル『ファーム』観劇。いつもの変態性が抑えられたストーリーのある芝居。生命科学技術の進歩で、今や遺伝子操作で生まれてくる子供を「つくる」ことも可能な時代。遺伝的な病気になるリスクを避け、性別や、髪の色などのルックス、どんな才能を持った子供がいいか、なども選べるようになる。そういう時代に、遺伝子操作でつくられた子供をどういう存在として認識すればいいのか、とか、人間らしいってどういうことなのか、などについて描いている。技術だけがどんどん進んでいき、もはや神の領域に入り込んでいるのかもしれない。倫理的な問題が取り沙汰される。…といったように、すでに現在の技術というのはすごい勢いで進んでいるので、こうした芝居はあっという間に古いものになってしまう危険性があると思った。その先のテーマ、人間のありかたや家族のありかたなどを、もっとサンプルらしく変態的に描いてほしかった気も。

革命アイドル暴走ちゃん『騒音と闇』観劇。寺山修司のお面とか、糸電話とか、使われているモチーフは変わらないものもあるが、より洗練されている感じ。コントロールされた混沌、というやつ。だからこそ、狂騒的だけど安心して見ていられるような。水や豆腐やわかめぶっかけられるのは、これはサービス。ドイツ凱旋公演というだけあって、外国人の女の子が主要なパートを担っていて、それが功を奏していた。彼女の歌はものすごく迫力があった。かっこいい!日本人じゃなかなかできないよな。。。でも日本人の役者ももちろんすごくよかった。皆パワフルだしサービス精神に溢れている。愛!

表現•さわやか『The Greatest Hits Of HYOGEN SAWAYAKA』観劇。過去10年の間に上演されたコントのなかから選ばれた珠玉のコント10本。以前に観た好きなコントがまた観られて嬉しい。村上航のココシャネル、モンド…もうわけのわからない妖怪のよう。すごすぎ。私が一番好きなのは、ファミレスで男女のカッパがキュウリ食べるやつ。自分でキュウリをとって頭の上の皿に盛り、フォークで頭の上の皿からキュウリをとって口に運んでは「おいしいよ」「おいしいね」と言い合う。その緑の衣装と佐藤真弓の可愛らしさ。なんかほっこりする。

9月の観劇本数は12本。
ベストワンは葛河思潮社背信』。