2014年8月に観た舞台

KUNIO11『ハムレット』観劇。素舞台で暗めの照明、音楽もあまり入らないシンプルな演出。こういうシンプルな演出だと役者の力量が問われるが、役者で特によかった人はいなかった。台詞に独特の抑揚をつけており、あまり感情がこもっていないため、場面場面がツラツラと流れてしまう。特にハムレット役の役者は台詞が一本調子で、まったく入り込めなかった。演出にもメリハリがなく退屈。これで二時間半休憩なしは辛かった。

文学座7・8月アトリエの会『終の楽園』観劇。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をモチーフにした作品で、確かにドストエフスキー的な世界。高級 老人ホームに入っている老人と、彼の三人の息子、一人の娘との間にある確執。絵の講師として現れた女によって、家族の歪みがあぶり出される。明確な主人公らしい人物を設定せず、登場人物全員の背景を描いている。それぞれ独白するシーンがある。セリフにはしばしば古典文学作品の一節が引用され る。今までの長田育恵作品とはだいぶ趣が違うが、見応えがあった。登場人物それぞれの人生が立ち上がる様は、ゾクッとさせられる。

三条会アトリエお別れ公演『ひとりごけ』観劇。9年間続いたアトリエが、この公演をもって終わってしまう。この千葉にあるアトリエで、様々な作品に出会った。個性的な劇団員たちの迫力ある演技に圧倒され、演出の大胆さに驚嘆した。小さなアトリエで世界を創造する。それはなんて贅沢なことだったか。『ひとりごけ』は、言わずと知れた三条会の代表作『ひかりごけ』を、主宰の関美能留が一人で演じる。うん、関さん一人バージョンもすごく面白い。セリフや演 出で、これがアトリエの最後の公演だということを示す。とは言っても湿っぽい感じではなく、こけるときはひとりだからひとりごけ、というギャグ。

篠田千明『機劇』Bプログラム観劇。いきなり本格的なデッサン会になって(モデルがヌードに)びっくりしたが、ほかの人は皆当然のような顔をしてデッサンしてるので、私も驚いてませんよ、という顔をしてデッサンした。ほかの人が描いているものをチラッと観たが、なんか皆、たいしてうまくないくせに、それっぽくせわしなく手を動かしている。これは、別にデッサンの力を試されているわけではないのに、皆、「うまく描かなきゃ」とでも思っているような。デッサンに必要なことは、まず対象をよく「見る」こと。次にそれをなるべく正確に「記述する」こと。多くの人は、「デッサンをする」という行為そのものに夢中になってしまっていて、これらのことが疎かになっていたような気がした。まあ余計なお世話ですね。後半はテキストを使ったパフォーマンス。そのテキストは事前に配布されたり、途中で配布されたりするが、最後は回収される。しかし劇場出るときにまた配られる。そのもったいつけた意味がわからなかった。テキストも快快のころとは違い、理屈っぽい感じで面白味に欠ける。快快のころは、集団創作だったからか、純粋に「面白いことをやる」という感じで、その遊び心がよかったのに。篠田千明は海外行って方向性がかなり変わり、ちょっと尖がった方向に行っちゃったのかなと思った。

朝日のような夕日をつれて2014』観劇。初演が1981年で、今回は17年ぶり7回目の上演だという。私は初見。面白かった。スピーディーに場面が流れて行き、まったく飽きない。時事ネタもギャグも面白いし、なにより5人の役者の群唱とショーがめちゃくちゃかっこいい。本作品の出演を重ねてきたという大高洋夫小須田康人はコミカルな演技がうまい一方、大人の色気も感じさせる。玉置玲央の存在感が素敵。要所要所で可愛い衣裳を着て登場。可愛らしいのだけど、かっこよくもある、という。あと伊礼彼方の『蟻のままに』はすごくはまってる!鴻上尚史の時代を見据える目というのは、やはりすごいものがある。

範宙遊泳『インザマッド(ただし太陽の下)』観劇。映像と文字を効果的に使ってスタイリッシュに見せるというスタイルが確立されてきた。逆にいうと、そういうスタイルを見せるだけの芝居、という感じ。テーマは一応あって、やりたいことはわかるのだが、私には響かなかった。

KAKUTA『痕跡』観劇。10年前の嵐の夜に起きた轢き逃げ事件。轢かれて川に流され、行方不明になった子ども。子どもの母親はガンを宣告され、死ぬ前 にもう一度子どもを探そうとするが…。シリアスな群像劇。KAKUTAってこんなにシリアスだったっけ?もっと軽くて笑える感じだったよな…。シリアスな内容だけど、笑える部分もあるし、ちょっとジーンとするシーンも。役者では松村武がよかった。笑いの印象が強い松村さんだが、シリアスな役は かっこいい。背中を丸めて円形の劇場の真ん中に座っているシーン、背中だけで男の人生の複雑さ、苦悩、哀しみを語っていた…。

彩の国シェイクスピア•シリーズ番外編 ニナガワ×シェイクスピア レジェンド第1弾『ロミオとジュリエット』観劇。若者をメインにしたオールメールのロミジュリ。俳優は演技力よりその若さで勝負、みたいな感じなのかな。しかしいまいちパワーを感じなかった。蜷川は冒頭、若者たちの激しいケンカで観客を惹きつける。演じる役者たちも力一杯やっているので、最初はおお、と思ったのだが。若者たちが上半身裸になり、若い肉体を見せつけるのだが、皆揃いも揃って痩せているため、あまりエネルギーを感じなかったというか。なかでも最後に出てきた異様に痩せた役者が印象に残った。若者たちの、純粋で鬱屈してて苛立っていてナイーブで、弱い面がすごく伝わってきた。ジュリエット役の月川悠貴くんは、綺麗だし演技力もすごいのだが、どう贔屓目に見ても14歳の少女には見えず…。こういう落ち着いたたおやかなジュリエットもあっていいのかもしれないが、ロミオ役の菅田将暉くんが若くてピチピチなだけに、二人のシーンは特に違和感が…。最後は、本来ならモンタギュー家とキャピュレット家が、悲劇を繰り返さないようにと手を取り合って終わるのだが、今回は、異様に痩せた役者が出てきて、機関銃をぶっ放って舞台上の俳優たちを撃ち殺してしまう。この意味が私はよくわからなかったが、市村正親が主演のときと同じ演出だったようだ。復讐の連鎖が戦争にもつながっていく、ということなのかな。

白井晃構成•演出『Lost Memory Theatre』観劇。三宅純のアルバム『Lost Memory Theatre』を音楽、演劇、ダンスを織り交ぜながら舞台化する試み、とのこと。音楽とダンスを、幻想的で美しいイメージでつないでいる。舞台美術も美しい。俳優として出ている白井晃さんはチャーミング。幕間には観客席に現れたりも。白井さんの美意識が隅々まで行き渡った作品。白井さんはKAATでのアートディレクターとしての最初の仕事をきちんと果たした。いい始まりだと思う。しかし、私、白井さんの作品って綺麗なのだけど退屈で、寝てしまうのだった・・・。今回はストーリーがなくイメージだけだから、特にそうだった。だけど、こういうただただ美しいだけという舞台を、これだけの完成度で見せられると、やはり迫力がある。

ままごと『わたしの星』観劇。柴幸男が、オーディションで選ばれた高校生たち10人と作った芝居。ホンがベタすぎてつまらないし、出演している女子高生たちのキャーキャー声がうるさく、なにかを感じるヒマもなかった。主人公らしい人物が設定されておらず、皆が同じようなテンションで、最初から最後まで大声でキャーキャーわめきちらしているので、まったく話に入り込めず。スピカとナナオの友情のシーンはよかったので、それをベースにして話を作れば面白くなったと思う。だけど一人一人に見せ場を作らなきゃいけないからか、軸になるストーリーがなくて、結果ただうるさいだけだった・・・。

はえぎわ『ハエのように舞い 牛は笑う』観劇。一本のストーリーがなく、たくさんのエピソードで見せるナンセンス散文劇。全体的に面白いわけでも、一つ一つのエピソードが笑えるわけでもない。生演奏はいいのだが、芝居との絡みが中途半端。なにがやりたいのかよくわからなかった。

劇団うりんこ『妥協点P』観劇。柴幸男作•演出。高校生の図書準備室を舞台に、文化祭の出し物のために女子生徒が書いた芝居の台本をめぐって教師たちがバ タバタするという話。話はあってないような、メタ演劇の構造。内容は特に面白いとは感じなかったが、実験的な構造とシンプルな美術はよかった。

地点『コリオレイナス』観劇。地点らしい舞台。独特のリズムの台詞回しと暗めの照明が眠りを誘う…。後半はよかった。コリオレイナスと母のやりとりが迫力。安部聡子がよかった。ユニークな生演奏もよかった。

さいたまゴールド・シアター×瀬山亜津咲『KOMA'』観劇。スタイリッシュな演出・振付・音楽のなか、平均年齢75歳のさいたまゴールド・シアターの 面々がときに不器用に動き、語る。ダンスというよりパントマイム。個々人の人生が垣間見れる瞬間もあり、興味深かった。なんというか非常に人間的。

8月の観劇本数は14本。
うーん、不作の月。私の芝居の見方が変わったのかな。観ている間集中できなくなってきた。ほかのどうでもいいことを考えてしまうのだ。あまり小劇場の芝居を観るということが楽しめなくなってきたのかな。。。商業演劇だと、好きな俳優が出ていたり、セットが豪華とか、派手な仕掛けや演出があるというだけで、結構楽しめたりするのだけど。
Twitterとかで批評家や小劇場ファンの人たちが絶賛している芝居(たとえば範宙遊泳とか地点とか)の良さがわからなくなってしまった。とにかく芝居に集中できてないから、芝居をきちんと観ることができず、観る目が鈍ってきているのかもしれない。いや違う、やっぱり面白くないのだ。自分が。人の意見なんてどうでもいい。評判がよくても実際観てみるとつまんなかったりする。私は批評家じゃないし、別に芝居の良さとか、演出の意図とかを見つけなくてもいいのだ。好き勝手に感じるままに観ていいのだ!