11月に観た舞台

スガダイロー5夜公演『瞬か』の飴屋法水×スガダイロー観劇。様々な形をした古いピアノたち。ピアノとしての寿命は尽きているのかもしれないが、数十年もの間、誰かの手によって奏でられてきたという誇りと威厳を持ち合わせている。存在感を放つそれらのピアノが、ハンマーで執拗に殴られ、ピアノの形ではなくなり、やがて大きな音と震動とともに倒れて死んだ。ピアノの残骸が転がるなか、死んだピアノの一部や、死んだピアノの椅子や、ピアノを殺したハンマーが吊り上げられた。その傍ら、生きているピアニストが、生きているピアノを、これ以上ないほど激しく情熱的にかき鳴らしていた。ピアニストが去った後残ったのは、遠い夢の残滓だけだった。

スガダイロー5夜公演『瞬か』。今夜は近藤良平×スガダイロー。最高だった!!良平さん、自由すぎ!!素敵すぎ!!舞台上であんなに楽しく遊び回り、観客を和ませ楽しませるというのは、良平さんにしかできないパフォーマンス。良平さんに絡まれまくって困惑しつつも楽しげに応じるスガさんも素敵!!「最高のセッション」って、こういうものを言うんじゃないだろうか。近藤良平は当然ながら普通に踊るわけもなく、その登場からして呆気にとられる。のほほんと自然に明るく舞台上で動く良平さん。スーツケースからいろんな物を取り出し、舞台上に並べ、いろんな服に着替える。舞台上には3台のグランドピアノとパイプオルガンのようなアップライトピアノ。スガダイローと近藤良平は、まるで追いかけっこするみたいに、4台のピアノを代わる代わる弾きこなす。近藤はスガの後を追うように次々とピアノを移り、スガも追い越されまいとピアノを移って弾く。自由自在な近藤良平は、いきなりスーツケースから出した物を食べ始め、スガにも勧める。スガは困惑しつつも食べる。タコのするめをスガに渡し、スガは途中で袋を開けてそれを食べる。スガの持つユーモアセンスが光る。近藤のやることに、苦笑しながらもすごく楽しそうなスガ。舞台全体を使って目一杯遊んでみせる近藤良平。ピアノを弾いたりスガに絡んだり、ユニークな動きや表情で笑わせたり、真剣なダンスをしたりと、一瞬たりとも目が離せない。一方でスガはピアノを使ってしっかりとその場を支配していた。スガのピアノがあるから近藤は自由なのだ。

イキウメ『片鱗』観劇。面白かった。今回はSFではなく「ホラー」。平和だった日常生活が、いつのまにかじわじわ破壊される。その謎が謎のまま残される感じがたまらなく良い。不可解な現象を「解明」するのではなく、ただ語っていくだけなのだが、それがゾクッとする効果をあげている。

青年団『もう風は吹かない』観劇。海外派遣青年隊員となる青年たちの訓練所での生活を描いたもの。それぞれ違った国へ行く彼ら。徐々に明らかになる彼らの恋愛模様とか、一人一人の想いが興味深い。特に「夢ややりたいことが日本で見つからないから海外に行くんだ」という青年の言葉には考えさせられる。

燐光群『ここには映画館があった』観劇。1976年の、まだ映画館が人々の繋がりの場としてコミュニティを支えてきた時代と、デジタル化やシネコンの隆盛により、旧来の映画館の多くが閉鎖を余儀なくされた現在を行き来しつつ、名作映画についてのうんちくを登場人物たちが語る。うーん、退屈だった。

劇団桟敷童子『紅小僧』観劇。昭和初期の、神隠しに呪われた村の話。うーん、いつもに比べて話にひねりがなく、地味で退屈だった…。仕掛けもいつもより地味だったような。なんかドラマティックな展開があるわけでもなく、小さな村のなかで完結してしまう物語には物足りなさを感じてしまう。

サンプル『永い遠足』観劇。『オイディプス王』を下敷きにした話らしく、それらしいエピソードが出てくる。ストーリーがなく、ところどころ変態的な面白さはあるものの、全体的には退屈。サンプルらしいといえばそうだが、今回はいまいち乗れず。個人的には古舘寛治さんが出てないのが悲しかった。

てがみ座『地を渡る舟』観劇。民俗学者宮本常一の話。研究を重ね、日本中を歩く。独自の道を見出すが、戦争が起こり…。脚本はしっかりしてるし演出も丁寧。役者もいい。だが題材にまったく興味が持てなかったからか、退屈で長く感じた。優等生的というか、ドラマティックな盛り上がりに欠ける。

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談』観劇。現代版四谷怪談。杉原さんらしいポップな演出で新鮮で楽しい。二幕のお岩の見せ場はしっとりと情感豊かに魅せ、見応えがある。残念だったのは三幕。通常はあまりやらないシーンも取り入れたのはいいのだが、冗長すぎた。しかしラストの斬り合いはカッコよかった。

『ダンシング・ガール』鑑賞。インドのダンサーの踊り。「インド伝統舞踊と現代のはざまで、葛藤から見出された美」…らしいが、よくわからず。自己のテーマを探るパフォーマンスなのだという。踊りらしい踊りはなく実験的な感じ。観ていてさっぱり面白くなかった。

マームとジプシー『モモノパノラマ』観劇。素晴らしかった。ごく身近な日常を題材にしながら、ここまで深く美しい喪失を描ける作家がほかにいるだろうか。演出も洗練され、木枠を使った動きとか絶品。マームはいつも女優の衣裳が可愛いが、今回は特にそうで、なんかエロい感じすらしてしまった。

Q『いのちのちQ』観劇。素晴らしく面白かった!お下品なのにカワイイ。悪趣味なのにユーモラス。変態的なところはちょっとサンプルをも彷彿させる。生き物の生態を、妄想をめぐらせつつ考察する。若い女性作家で(こういう括りも嫌だろうけど)ここまできちんと変態をやってくれる人がいるとは!

リミニ・プロトコル『100%トーキョー』観劇。すごく面白かった。東京23区に住む人々のなかから、居住地や年齢などの統計データから、「東京23区を代表する100人」を選出。つまりその100人が、東京23区に住んでいる人々の縮小版。「世界がもし100人の村だったら」みたいな感じ。選出された100人の人々はもちろん俳優ではなく、普通の市民。2歳くらいの子供から80歳くらいの老人まで。100人が自己紹介(自分の名前と職業、好きなことや宝物などを話す)をはじめた時点で、なんかうるっときてしまった。統計学に基づいて「東京」を浮き彫りにする・・・みたいな鋭い感じではなかった。もっとおおらかに気楽に観るべきものだろう。私は舞台に出ていた100人の人々が、とにかく愛しく思えた。彼らはそれぞれ家族があり好きなものがあり職業があるのだ。100人の人々が、自己紹介を終えたあと、様々な質問に対し「はい」と「いいえ」に分かれ、場所を移動する。それは個人的なものから社会的な問題まで。原発事故や天皇制まで。セックスに関するものまで。それは統計学ではなく「個人」を描いているんだ。100人の人々が、それぞれ東京の違う場所で生きてて、みんないろんなことを思ってて、なかにはガンだったりうつだったりした人もいて、自殺を考えてた人もいて、それでも今生きて舞台に立っている。最後の、「あなたは●年後には生きていると思いますか」という質問は、涙が出てしまった。5年後、10年後、生きていますか。老いた人々が「いいえ」に移動する。「70年後」になるとほとんどの人々が「いいえ」に。でも子供たちは「はい」に・・・。そうだよな。今10歳以下の子供たちは、70年後も生きてる可能性が高いんだ。子供たちが「50年後の東京」について語っているのがまた泣ける。希望だったり絶望だったり。子供たちを生かさなきゃいけないんだよ。70年後まで。きちんと。それにしても、出ていた100人の人たちが、それぞれ「個性」を持っていたことに、なんというか圧倒された。どこにでもいそうな人々、なのにその人にしかない個性。その人にしかない好みや職業。その人にしかない世界。それはなんて尊いのだろう。つまりこれは、「統計学」とかではないのではと思う。むしろ昔テレビでやっていた「どっちがマジョリティか」みたいな番組に近い。へえ、そうなんだ、的な。そういう意味ではこれはれっきとした「演劇」であり、「エンタメ」ですらあると思った。今の「東京」を描いているかと言われれば、違うとも思うし、100人の人たちが東京を代表しているわけではないと思う。でも今東京に住んでいる様々な人の姿が見られて、なんというか勇気をもらえた?ような。東京、捨てたもんじゃないじゃん、的な。興味深かったのは、出身地についての質問。「東京は地方出身の人が多い」とか言われているけど、実は生まれも育ちも東京、という人のほうがマジョリティ。地方から一旗揚げに上京する・・・みたいな人は少なくなっているのか。やっぱ東京人が強いのか・・・。ほかにも、東京オリンピックには賛成の人のほうが多いのかー、とか、「自分のことが好き」「東京が好き」という人がマジョリティなんだとか、興味深かった。なんだかわりとみんな楽観的で幸せなのか?とか思った。みんな楽しそうで、最後は祝祭的な雰囲気。もちろん、それも「演出」なのかもしれないけど。そうだとしたら、そういう祝祭的な雰囲気で終わらせようとした意図はなんだったんだろうか。私にはよくわからない。けれど、この作品がシリアスなものではなかったからこそ楽しめたのも確かで。もっと鋭く「東京」の現実を描くべきだとかいう意見は、とてもよくわかる。確かにもっと違う形で、鋭くシリアスに深く切り込めば、尖がった素晴らしい作品になった可能性もある。でも最後みんな笑って終わり、という日本人的な感じは、私は好きだった。統計とかよりも「個」の力のほうがやはり圧倒的にすごいのだ。目の前で100人の、俳優でもなんでもない人たちが舞台に立ち、パフォーマンスのようなものをする、という、それだけで結構感動してしまう。深い分析のないただの統計は、個の前には無意味だ。

11月の観劇本数は13本。
ベストワンはスガダイロー5夜公演『瞬か』飴屋法水×スガダイロー
この公演についてはこちら参照↓
http://romi-fuzuki.hatenablog.com/entry/2013/11/02/022542