7月に観た舞台

ピチチ5『はぐれさらばが“じゃあね”といった』観劇。太宰治をモチーフにした演劇シリーズ。太宰などの文人たちを描いたもの。ピチチならではの大仕掛けもあったが、話はいつもに比べるとちょっと物足りない感じ。ピチチの芝居だと思わなければ、面白かったかも。最後のシーンはよかった。感動的な感じ。時系列じゃない構成がうまいね。

シベリア少女鉄道『遥か遠く同じ空の下で君に贈る声援2013』観劇。メチャクチャ面白かった!笑いすぎて卒倒しそう!なんていうことだ!こんなに面白いなんて、おかしくない?伏線の張り方、回収の仕方、すべてが細かく計算され尽くしている。仕掛けが実に凝っている。台詞の端々まで。すごすぎ!そう、演劇はこんなにバカバカしくていいのだ。演劇は「芸術」じゃなくていい。なんだか演劇を観る純粋な楽しさを取り戻せた、思い出した感じ。最高!この、観終わった後の高揚感がいいんだよ!実は私は10年前の初演も観ている。つまり、ネタを知っていた。それでもなお、台詞に散りばめられた伏線や、パズルのように巧妙な構成に唸ってしまった。というか、ネタを知ってるとか関係なく、もう芝居が始まるとすぐに魅せられてしまった。芝居が、話が、人が、おかしいのだ。そして、役者がなんて魅力的なことか!登場人物はみんなヘンで過剰なのだが、役者の魅力がすごくよく出ていた。佐々木幸子のエキセントリックさ最高だし、篠塚茜は揺るぎなく可愛いし。役者としての土屋亮一も見もの。

カトリ企画UR『紙風船文様』観劇。西尾佳織演出。教会の礼拝堂という場所がすごくいい。ここで男女二人が演じているということに興奮。長く連れ添ってい るらしい夫婦が日曜日をどう過ごそうかと話す芝居なのだが、なんか世間と切り離された男女の孤独と甘さを感じ、恍惚とすると同時に淋しくなった。

おにぎり『トークトワミー!』観劇。おにぎりは第一回公演も観ていてそれが面白かったし、第二回目の今回は江本純子が脚本を担当しているということで興味を持って観に行った。やっぱり面白かった。いつもの江本さんの脚本とはだいぶ違う感じ。映画『トーク・トゥー・ハー』をモチーフにしてるのかな?倦怠期にある夫婦と、どうしようもなくダメな妻の兄。兄はたびたびこの夫婦の家を訪れては、金を借りに来る。なぜか律儀に金を渡す妻。そのうち妻も夫も病気になり・・・。リアルかと思いきや幻想っぽいシーンも入って、不思議な感じ。なにより3人の会話がすごく面白い。江本さんの脚本の面白さは、やはり台詞のスピードの速さ、散りばめられた黒い笑い、センスのよさ。今回は演出を千葉哲也さんが担当しているので、江本さんの脚本のよさはそれほど生かされていなかったかもしれない。だけどヒューマニズム溢れるあったかい感じでした。この夫婦は、長年連れ添って、お互いぞんざいな感じになっているけど、それでも、だからこそ一生一緒にいるんだな・・・という感じで、それはそれで微笑ましい。ラストはブラックな泣き笑いという感じで、それもよかった。アフタートークによると、江本さんの台本のラストはもっと破壊的な感じだったらしい。一瞬、そっちのほうが面白かったんじゃないか?と思ったが、演出の千葉さんが、あえてあったかい感じにしたと。それはそれでアリだし、観ていて嫌な感じもせず、よかったのかも。

スタジオライフ『音楽劇アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』Mチーム観劇。ルパン役に岩崎大、カリオストロ伯爵夫人役に青木隆敏。後半が特にスリ リングで面白かった。ルパンとカリオストロ伯爵夫人の、愛憎半ばする複雑な関係がいい。互いに互いを出し抜こうとしながらも、愛し合ってもいる。私は自分が女性だからか、こういう女性と男性の愛と対決を描く・・・という物語は、やっぱり女性が勝ってほしいんだ。だからちょっとモヤモヤした部分はあった。でも、カリオストロ伯爵夫人役の青木君はよかったな。それにしても青木君以外は台詞噛みすぎ。

東京デスロック『シンポジウム』観劇。芝居の大枠と、語られるテーマだけ決まっていて、台詞の内容は日によって変わるという、セミドキュメ ントの手法。後半は役者がうまく誘導して観客参加型に。今までのデスロックも観ているということもあり、手法自体はさして目新しいものではない。横浜・中華街の感想から始まって、日本の各地域の境界の話、そこから話が広がって国家の話、政治の話に。テーマありきだから、持っていきかたがやや強引な気もしたが、なにより気になったのは、自ら話そうとする役者が少なかったこと。そういう演出?東京デスロックの役者たちは、司会に振られないと話をしなかったりした。大谷能生さんは自らの政治に対する意見みたいなのをわりと話していたけど、共感はできなかった。一番すごいと思ったのは、渡辺源四郎商店の柿崎彩香。彼女が一番自分の心に正直に話していた。今のこの、参院選を控えて、選挙運動も盛り上がり、有権者たちの間にも「今回の選挙に行かない奴はカスだ」的な空気が広がりつつあるなかで、彼女は「今は勉強してるけど、もともと政治に関心はない」と言い放った。そうだよね。誰も彼もが政治に関心あるわけじゃない。大谷さんが、「憲法は皆が読んでいるから、政治の話は誰とでもできる」的なことを言っていたのに違和感。憲法は皆が読んでいる?政治の話を誰でもできる?そんなことはない。そういう素養のない人のほうが多いかもしれない。むしろ映画の話とかのほうがしやすいかと。国家とか政治とか震災とか愛とか、いろいろな語られるべきテーマがあった。もちろん舞台上で語られて完結するわけではなく、不完全燃焼のまま終わる。なにを語るかではなく、むしろ「語る」「対話する」ということ自体の重要性を描いていたような気がした。「対話する」ためには、自らの意見を相手に伝えることが必要だ。そのためには、自分がそれに対してどう考えているのか、どう感じたのか、あるいは感じなかったのか、を、自分自身が知っていなければならない。だから「対話」は難しい。自己と相対することだからだ。「対話」の必要性・・・ということから、観客参加型になっていくわけだが、私はいまいちこの流れに乗れず。なんか台本通りの感じがしてしまって。デスロッ クの芝居は、乗れたときは本当に陶酔感があるのだけれど、仕掛けが見えてしまうと、参加するのではなく観察するという感じになってしまう。いきなり大勢の人と「対話」しようとするんじゃなく、まずは身近な人との対話が必要。社会を変える、政治を変える、そのために選挙に行く、のはいいけれ ど、自分の恋人や家族との関係というのがまず大事で、その延長線上に社会がある・・・という考え方のほうが自分はしっくりくるな、と思った。

七月花形歌舞伎『東海道四谷怪談』観劇。菊之助のお岩、すごくよかった!なんかじめじめした哀れっぽい感じが出ていた。染五郎伊右衛門も、ものすごく 色っぽい悪役で、すごくよかった!この組み合わせ、いいかも。過去に勘三郎のお岩、橋之助伊右衛門を観たことがあるが、それよりはまってたかも。

FUKAIPRODUCE羽衣『Still on a roll』観劇。面白かった!やっぱ羽衣最高!いつもよりかなり妙ジカル。歌がどれもほんとにいい。かっこよくて切なくて、耳に残る。糸井さんはやはりすごい。妙ージカルだけど、ストーリーもあって、それもよかった。年の差カップルの話。男はいい年して無職でヒモ、女がスナックで働いたりして金を稼いでいる。女のほうにはいろいろ事情があるようだ。最後の展開がすごくいい。ある村に住む人々。そこで人は愛し合ったり離れたりする。宿無しの親がいない貧しい兄妹は食い逃げしてしのいでいる。この兄妹のエピソードも結構泣けた。歌はほんとにどれも最高。猫っ毛!と思い切り口ずさみたくなるね!愛の花を、役者全員が激しく踊りながら繰り返し歌っていたとき、突然切なくなって涙が出た。こっち来いよベイベー♪そっち行くわダーリン♪西田夏奈子、日高啓介、そして大谷亮介のアフターライブもまた素晴らしかった!つか大谷さんが出るなんて知らなかったから、超嬉しかった。大谷さんはもち ろん女装で登場。西田さんのエンターテナーぶりはすごい。毛皮族江本純子をもっとアダルトにした感じ?歌もほんとよかった。ヒュー!

三浦大輔演出『ストリッパー物語』観劇。なんて残酷な物語なんだろう…。胸糞悪い…。残酷な物語をとことん丁寧に描くことで、救いようがない人生の残酷さが身にしみる…。観終わってすごく辛い。これを観て平静でいられる人は、あらゆる意味でマトモで幸せな人なのかも。役者はどの人も本当にすごくよかった。でんでんの最初の掴みは最高だし、それに続く渡辺真起子の踊りも最高。ていうか渡辺真起子はすごくスタイルがいい。どうやってあんなスタイルを維持してるんだ?どうしようもない人間のクズともいえる男を演じたリリー・フランキーはすごく巧みだった。男のいやらしさ、ずる賢さを巧みに演じている。本当にリリーのことが嫌いになってしまいそうだ。あれが「愛」だとは絶対言わせない。男目線ではこれが「いい話」なのかとびっくりする。一般社会からドロップアウトしてしまった人間たち。彼らが愛し合ったり憎み合ったりドロドロになる様を描き、それを通して人間の愛や業を描いている・・・ のかな。ある意味、底辺の人間たちを描き、そこに人間性を持たせようとしているというか。それは三浦さんの作品にも通じる。終盤の、明美と美智子の対比は、本当に残酷すぎる。明美の歳とか、それまでの生き方とか経験とか、それなりに培ってきたものすべて、明美の最後の砦である踊りすらも、美智子の若さと純粋さと将来と才能に負けてしまう。16歳の、将来の可能性が広がっている美智子は眩しい。「普通に生きる」というのは、なかなか大変なことだ。「ちゃんとまともに生きよう」という意識がないとできないことなのだ。この芝居のなかのシゲは、普通 に生きることを意図的に放棄してしまった人物。シゲと付き合っている明美も同様。その先に待ち受けているのは・・・地獄だ。結局幸せになってる人は誰もいないという。嫌な感じだけが残る。救いはなにもないのか?シゲの台詞で、「ここまで落ちたんだから開き直って落ちよう」みたいなのがあったが、そういうこと?

ミナモザ『彼らの敵』観劇。素晴らしい!脚本も演出もすごいが、役者たちが素晴らしい。パキスタンインダス川をくだっていた学生たちが現地の強盗団に誘 拐され、44日間の監禁を経て解放。本来なら喜ばれる出来事なのに、彼らを待っていたのは「日本人として無知でバカな学生」という批判だった。誘拐された学生の視点で、解放後の報道の暴力といえる問題について、そして彼らがそのことによってどう人生を変えられてしまったか、を丁寧に描いていく。一方、周囲の様々な人々の姿をも描き、「事実」は人の数だけ存在するということを、緊張感をもって、しかし淡々と伝える。あの事件をモチーフに描かれているのだけど、誘拐された学生たちに感情移入してしまうけど、それを事実じゃない記事にしたてあげた文春の記者は、「これが読者の求めていることだ」と一歩もひかず、謝罪なんてしなかった。謝罪したら負け、という世界なのだろう。マスコミの情報操作、それに躍らされてる日本人…基本的に今となにも変わってない。マスコミが真実を報道するとは限らないし、震災後は特に「マスコミも政府も言ってることが本当かどうかわからない」という事態になっている。でもそのなかで懸命に生きてる人にスポットを当てた作品。一見頭がちょっと弱そうな女性ライターが出てきて、なんかうざいなあと思っていたのだけど、その後の彼女の切り返し、ツッコミがすごいと思った。「じゃあなんであなたは週間現代でスポーツ選手のパンチラを撮ってるんですか?それに社会的な意義があるとか思ってます?ただ理論武装してるだけ」。女性ライターは、セックス特集の取材をして記事を書いている。その企画自体には女をバカにしてると嫌悪感を抱いている。だが彼女は読者がそれを求めているから、という綺麗事じゃなく、「自分が取材して記事を書いたことが活字になるから面白くてやっている」と言う。誘拐にあった主人公の男は、解放後、あちこちの海外を放浪さしたあと、写真という表現手段をみつけ、週間現代でパパラッチのような仕事をしている。「パパラッチに追いかけられて経験があるからこそ撮れる写真がある」と言うが、女性ライターにはそれはただの理論武装にしか思えず反論する。あと印象的だったのは、主人公の坂本が、ずっと事件で報道の侮辱を受けたことを忘れられず何年もこだわっているのに対し、同じ誘拐事件に遭った後藤は、それはもう考えても仕方がないことだと言う。取材にきた出版社の人の名刺も、批判の手紙も全部もやし、忘れるわけじゃなく前を向いて生きていく。後藤の態度は潔いかもしれず、これからの人生を送って行く上で大切なことなのかもしれないと思った。だって人間、いつまでも過去のことにこだわって恨んで いるのは後ろ向きだし、それはそれで自分のなかで一生抱えつつ、人生を新しく考えたっていい。後藤はマスコミ志望だったが絶望して進路を変えた。監禁されてた間、学生たちにいつも明るく「メイクユアマイセルフハッピー」と言って励ましてくれた、同じく異国から誘拐されて監禁されていた男の最後には泣けて仕方なかった。切ない…。それでも希望を失わず、つねに自分をハッピーな気分にすること。それはとても難しいことだ。事実と違う記事だといって坂本らが文春に対し抗議したときに、文春の記者は「それは読者の受け取り方次第です」といってとりあわない。週刊誌の報道記者は 基本的に取材対象者に原稿チェックさせることはない。まあ言ってみればなんでもありな世界。その記事を信じるかどうかは読者次第。なんだか、マスコミの報道によって世間の論調がまるで変わってしまう、というのに恐怖を覚えた。早い話、たとえば戦争とかになって、マスコミや政府が「こ れは日本にとって痛みを伴うけど、長期的に見れば絶対日本は勝つし、必要な戦争なんです」とか言われれば、日本国民は納得したりするのかも。いやあホントに、幾重にも重なって人と人の思いが交錯し、彼らはそれに対し、気持ちいいほど真正面から対峙し、己の言いたいことをバンバン言い合う。それって今の日本人の間ではなかなかないなと見所がいくつもあって、それがすべて無駄じゃない。優れた脚本、演出、役者。ブラボー!なんか仕事をする、ということについて考えさせられた。女性ライターが、「じゃあいまのこの仕事はなんのためにやってるんですか?」と詰め寄るシーン。社会的意義のためとか読者のためというのは綺麗事。「自分が好きて面白くてやってる」というのが説得力がある。

7月の観劇本数は10本。
ベストワンは三浦大輔演出『ストリッパー物語』。