6月に観た舞台

『姐さん女房の裏切り』観劇。千葉雅子土田英生による舞台製作事業。まず二人の設定が面白い。50過ぎてもスナックで働く姉さん女房とヒモの男。ストーリー展開で見せるというより、二人のどこかおかしみを感じさせる会話で見せる芝居。上演時間も短めで、テンポのいい会話を楽しめた。

城山羊の会『効率の優先』観劇。会社を舞台にしたブラックコメディ。勤務中なのに仕事とは関係ないことをしている登場人物たち。社内恋愛とか不倫とか、同性の上司への嫌悪とか、いびつな感情を持つ彼ら。その歪みがとんでもない事態を引き起こしてしまう。最後のシーン、どうしようもなくてよかった。

うさぎストライプ『おやすみおかえり』観劇。可愛らしい舞台セットに、やくしまるえつこの歌がハマっている。そこで若い男女が踊ったりセリフ言ったりするのもハマる。ストーリーは断片的だが、テーマは伝わってくる。演出は特に目新しくはなかった。これが面白いかどうかは自分にはよくわからない。

はえぎわ『ガラパコスパコス』観劇。素晴らしく面白かった。柴幸男演じる主人公は、派遣でピエロの仕事をしながら、認知症の老女と暮らしている。そこに主人公の兄など他者が入り込んでくる。ほかにも様々な登場人物が錯綜。舞台全面を黒板にして、チョークで役者たちがどんどん文字や絵など様々なモノを書いていく。その空間のなかで、バラバラな登場人物たちが、生き生きと輝き出す・・・。最後、ボレロが流れるなかで行われるシーンは圧巻の一言。主人公が、ピエロの扮装を脱ぎ捨て、スーツに着替えて、満員電車に乗る。その周りを取り囲むように、役者たちがダンスのような動きをする。ボレロの曲が次第に高まり、クライマックスへ。あまりに効果的すぎる音楽の使い方だ。「老い」をテーマにした作品とのことで、観る人によって捉え方が変わるだろう。ラストシーンは哀しくなったという人もいるようだ。私は「ブラボー!」と心のなかで叫んだ。実際、終演後のカーテンコールのとき、客席から「よかったよ!」という声があがった。それくらい、この舞台には人の心を揺さぶるなにかが確かにあった。

『不道徳教室』観劇。自分はどうも岩松了と合わないのか、最後までピンとこないままだった…。役者のよさは感じたけど、話がそんなに魅力的に思えず。単に、その日トラムシートで観劇したせいで疲れて話についていけなかっただけなのかもしれないが。ほかに観た人は面白かったと言っていたので、芝居としてはいい芝居なのだろう。

岡崎藝術座『(飲めない人のための)ブラックコーヒー』観劇。アガサ・クリスティの処女戯曲『ブラック・コーヒー』から想を得た作品だという。少女誘拐監禁事件を軸とした展開。原作のストーリーから原爆などのエッセンスを抜き出したようだ。バラバラなエッセンスはバラバラなまま提示される。描かれている内容は結構エグいが、直接的な表現は一切なく、伝聞形式で進んでいくので、エグい感じはしない。エピソードは断片的で、ストーリー展開のようなものも特になく、わかりづらく退屈。台詞は散文のようで、長ったらしい。散文は凝ったものなのかもしれないが、私の耳にはうまく届かず。終盤の、長台詞を語る女優のエモーショナルな姿には打たれたが、逆に言えばそこしか観るべきところはなし。印象に残るシーンもいくつかあったが、全体的にはつまらなかった。ただ、感性を刺激される感じの芝居なので、こういうのが好きな人は結構いるかも。

青☆組『マリオン』観劇。ゾウガメのマリオンとそのばあばの物語を軸に、人間界の出来事など、複数のエピソードが出てくる。マリオンとばあばの話は優しくて切なくて哀しい。何百年も生きてたくさん恋もしたのに卵を産めなかったばあば。ある雨の日、偶然通りかかった道で拾った卵がマリオンだった。卵を見つけた日、ばあばは雨の中、卵を探しているゾウガメの母親の声を確かに聞いた。でもばあばは卵を自分のものにし、マリオンを「神の子」として育てる。卵を産みたかったのに産めなかったばあばの、つまり女性の痛切な叫びに心が張り裂けそうになった。ばあばを亡くした後、最後のゾウガメとなったマリオンは百何十年も孤独に生きる。その間ほとんど誰とも話さず、ゾウガメが存亡の危機にあることも知らなかった。最後は人間に捕らえられ、可愛がられるが、高いところに登ったときに海が見えて、たぶんそこから落ちて死ぬのだろう。孤高で切なくて美しい生涯。ちなみにゾウガメのマリオンというのは実在しており、この芝居はそれを元に書かれたようだ。

劇団ゴキブリコンビナート展『大人が本当に怖いお化け屋敷』観劇。最高だった!ゴキコンは常にこちらの期待を上回るパフォーマンスをしてくれるから、癖になる。今回はあの狭い空間のなかによくぞここまでと思うほどの構造。芝居仕立てでうまく客を誘導する体験型アトラクションのような感じ。長年ゴキコンを観ている私だが、今回は「え?ここまで!?」と驚いた。こういう体験は初めてだったな。二時間ほど待ったが、それだけの価値は十分あった。初日に行ってよかったと思った。
観客は一人ずつ中に入れられる。一人にかかる所要時間は約10分。つまり、一人のために役者たちが全力でパフォーマンスしてくれるのだ。この発想、サービス精神からしてまずすごすぎる。一人ずつしか入れないため、ヴァニラ画廊前には長蛇の列ができ、二時間待ちが当たり前という状況に。私が待っていた間、何度かエクアドルさんが受付に出て来て、客の状況とかを聞いていた。「一人ずつだとこの時間だと厳しいかもしれない」とか。なんかそういう内輪を垣間見られたのも面白かった。
順番がきて中に入ると、中は真っ暗で天井が低く、四つんばいになって細い通路を進む。真っ暗なのでいつまで四つんばいになっていればいいのかもわからず、恐る恐る体を伸ばして進んでいると、突如「乙武子」と名乗る手足のないだるま女が叫びながら飛び出してくる!びっくりしていると、後ろからだるま女をレイプしようとする斧を持った男が現れる。だるま女が「助けて!」とすがりついてきて、上に昇るよう指示される。またしても細く小さな階段を上がっていくと、今度は箱のようになった板の上に乗らされ、いきなりその箱ごと下にがくんと落ちる!下は水路になっており、私が乗っている箱を、両脇から男たちがぶんぶん揺する!男たちは歌っているのだが、笑えたのが、その場に歌詞を書いた紙が貼ってあり、二人ともおぼつかない感じで紙を見ながら歌っていた。二人の男はいろんな言葉で私を脅かしてきて、左側の男の背中を鞭で打ってくれと言われる。その場にあった鞭をとって打つと、「もっと、もっと強く!」と男が言うので、少し力を入れて打ったら、男は死んでしまった。どうやら私が男を倒したようだ。それでこの場面は終わり、また出て来ただるま女に次の道順を指示され、そこに行くと上のほうにエクアドルさんがいて、踏み台のようなところに上がるよう言われる。上がると、穴の空いた天井が落ちてきて、その穴の部分に私の体が入っている。びっくりしていると、エクアドルさんが脚立を私のいるところに降ろしてくる。これで上がってこいということなのだろうが、脚立がちゃんと立っていない。不安な様子を見せると、エクアドルさんは脚立の位置をずらし、それでもまだ定着はしていないようだったが、「なんとか大丈夫だ!」というエクアドルさんの言葉に、半信半疑で怖がりながらも脚立を昇った。昇った先にはさらなる試練が待ち受けていた。なんと丸太を渡した橋のようなものがあり、その上を渡るよう指示される。「マジで!?」とためらう。捕まるところはあったが、細い丸太の上をきゃあきゃあ言いながら怖々渡る。さっきの脚立といい、この丸太といい、デブの人は無理だろう。丸太を渡りきると、ニワトリやら山羊やらがいて(もちろん本物)、陰毛が伸び放題の全裸の女が飛び出してくる。二股になった長いペニスを持つ男が出て来て、さらにだるま女も出てくる。男はだるま女と陰毛女と交わり、女たちはあえぎ声を漏らす。なぜだかわからないが、どうやら呪いは解けたらしい。「呪いが解けた、呪いが解けた、お化け!さようなら!」等々と女たちが言い、外へと押し出される。
外に出ると待ちかまえていた受付の女性がカメラを向けてくる。私は笑ってピースした。その場でその写真を渡してくれる。
最後まで徹底したサービス精神だ。
感心したのは、あの狭い空間のなか、迷路のように道を作り、上述したような様々な仕掛けを作ったこともそうだが、役者たちがきちんとどこへ行けばいいのか指示してくれること。それも指示だと感じさせないようにあくまで芝居のなかの台詞の調子で、ごく自然に。危険なことには違いないが、危険だからこそ、ゴキブリコンビナートは観客の安全に関して最大限に気を配っている。やはりゴキブリコンビナーとは観客に優しい劇団だと思った。
とても濃密で怖くてドキドキでワクワクで贅沢で楽しすぎるパフォーマンスだった。

文学座ガリレイの生涯』観劇。重いテーマで、個人的にはあまり乗れなかったが、芝居としてはよくできている。特にガリレイ役の役者は熱演で、ラストの長台詞がよかった。

アマヤドリ『うそつき』観劇。男女4人の会話劇。会話劇なので、ひょっとこ乱舞のころからの劇団の特徴であったダンスシーンなど、身体を動かすシーンはなく、純粋に芝居を、会話を、ストーリーを楽しむ感じ。ある架空の国が舞台。ナイルという男と、スランプとギイコという女の3人が暮らす家に、突然男が訪ねてきた。男は戦争で死んだはずの、ギイコのかつての恋人だった板垣だと名乗るが、顔がまったく変わってしまっている。男の話によるといろいろあって整形手術を受けたようだが、その「いろいろ」の部分が荒唐無稽すぎて、本当に男が板垣なのかどうか、全員怪しんでいる。だがいつしかギイコは疑いながらも板垣と元通りの関係になりつつあり、男は自然とその家に馴染んだかと思われた。しかしナイルが突然男に「出て行け」と宣言。ナイルは、男が敵国のスパイで、自分の技術(「エレファント」というクローンを作る技術)を盗もうとしているのでは・・・と考えていた。抵抗する男は、自分が板垣本人であるという証拠を示すため、ナイルの疑問に答えていく。その後、ナイルが驚くべきことを口にする。ギイコは実は死んでおり、ここにいるギイコはエレファントなのだと……。広田さんの作劇の巧みさに感心。最後のほうで二転三転するのが面白かった。

アマヤドリ『千両みかん』『屋上庭園』観劇。どちらも面白かった。『千両みかん』は二人の役者が交互に番頭になったり店主になったり若旦那になったりと、変化があって面白い。特に中村早香は本当にいい味を出している。

6月の観劇本数は11本。
ベストワンは劇団ゴキブリコンビナート展『大人が本当に怖いお化け屋敷』。