5月に観た舞台

metro『なまず』観劇。つまらなかった…。役者は頑張っていたが、とにかく本がつまらない。震災後の世界を描いているのだが、荒唐無稽というか内容がないというか…。それでも生きていこう、みたいなことが言いたいんだろうか?月船さららがセクシーな格好で歌ったりするシーンはすごくよかった。

長塚圭史作•演出『あかいくらやみ』観劇。水戸藩天狗党のことは予習して観に行ったのだが、集中力に欠けていたせいか、話が頭に入ってこず、なんだかよくわからなかった…。派手な演出とか笑いとかがない芝居だから、余計に。出演者は豪華だったけど、舞台から遠い席だったこともあり、魅力がわからず。高いチケット代を払ったばかりに、残念な気分に。

三条会『三人姉妹』観劇。面白かった!役者がどの人も本当にいい。演出も変に奇抜にならず、戯曲の持つ言葉を大切にしていて、テーマがストレートに響いてくる。生活をきちんと送りたい、という気持ちになった。役者のなかでは特にヴェルシーニン役の山本芳郎さんがよかった!節制された動きに見とれる。ほかの役者も全員よかった。三条会は一時、役者が大量にやめたりして、どうなっちゃうんだろう?と思ったが、やはりよい芝居にはよい役者が集まるのだなあ、と妙に感心した。

唐組『鉛の兵隊』観劇。唐さんがいないなか、劇団員たちはよく頑張っていた。私は初演も観ているが、正直ストーリーは複雑でよくわからない。だが役者たちの熱演と、要所要所で笑えるシーンやインパクトのあるシーンがあるので、退屈はしなかった。唐さんがやっていた役は久保井さんが演じていた。でもやっぱり唐さんに復帰してほしいな〜。唐さんが出ない唐組は、やっぱり寂しい・・・。

範宙遊泳『さよなら日本』観劇。前回の公演もそうだったけど、言葉と映像の使い方が印象的な舞台だった。白壁に畳というのもいい。単にセンスがあるというだけでなく、なんか新しいスタイルを探っているような意欲を感じる。ストーリーも面白かった。どこか切なく淋しい、でも愛のあるお話。

青年団リンクニ騎の会『雨の街』観劇。ある日突然「雨の街」という不思議な場所に迷い込んでしまった男。自分に関する記憶をなくしている。雨の街に暮らす女は、毎日雨を見ながらおいしい紅茶をいれ、静かな時間を過ごしている…。ストーリーはわりとよくある感じ。そこに流れる時間を楽しむ芝居かな?

青年団若手自主企画vol.57マキタ企画『シュナイダー』観劇。「気持ちの悪い芝居」と聞いて、それを求めて観に行った。確かに気持ちの悪い芝居だった。物理的な気持ち悪さじゃなくて、精神的な気持ち悪さ。もっと生理的に抉られる感じを期待していたが、そこまでではなかった感。話は面白かった。

酒とつまみ『もうひとり』観劇。面白かった!池谷のぶえ村岡希美という個性派女優の二人芝居。二人ともすごくいい味を出していた。特に池谷さんは鬼気迫るものがあった。池谷さん演じる浜子は不思議な魅力で人のココロを虜にし、すんなりと他者の生活に入り込む。それは確かに「才能」といえる。また、姿の見えない「もうひとり」の存在が次々と、ひたひたと迫ってくる感じがよい。倉持さんによる脚本がとてもよくできているし、OFFOFFという小空間で達者な女優の二人芝居を観られるというのは本当に贅沢。最前列で観たので、役者さんの汗とかがすごくリアルで、動きもダイレクトに伝わってきて、臨場感があった。カーテンコールで姿のない登場人物たちに花束を贈るという演出もいかしている。

イキウメ『獣の柱』観劇。短編集として過去に上演したものをもとにした長編。うーん、短編集のときは面白かったんだけどなあ。長編になると時制が飛んだり話が複雑になったりして、テーマがやたらと壮大になって、ピンとこない感じに…。と思っていたけど、この公演、非常に評判がよい。言われてみれば、確かに脚本はよくできている。要は私に合わなかっただけだ。SF的な、地球の存亡がどうこうとか、そういう話に私が興味がないから、話に入り込めなかっただけなのかも。あと、コンディションが良くなかったということもあるだろう。客観的な評価というものを、自分はできないのか・・・。自分の好みじゃなくても「これはいい芝居だ」と見抜くことが重要なのかもしれないのに。

劇団桟敷童子『風撃ち』観劇。いつもの桟敷童子の感じで、最後の仕掛けも豪華。ストーリーは特に好きな話ではなかった。話に引き込まれるという感じではなかった。イキウメにしてもそうだが、ずっと観続けている劇団で、その作風にやや飽きてきたというのもあるのかも。

ハイバイ『て』観劇。初演も観ているが、本当に揺るぎなく素晴らしい舞台。いろんな人がいろんなところで書いてるけど、本当に、今これを観なくてなにを観るんだと思う。上演を重ね、初演より洗練されていると思った。岩井さん自身が、作品をいい意味で引いて見ている気がする。これってすごいことだ。『て』は、岩井さん自身の家族を描いた作品。ごく個人的な話なのに、誰が観ても心に響いてくるような普遍的な話になっているのがすごい。岩井さんの作家としての才能をビシビシ感じる。だって自分の家族の話を、あんなに突き放して客観的に、感傷的にならずに「作品」にしてしまうんだよ?最初は次男の視点で、次に母と長男の視点で、同じシーンを繰り返すことで、それまで見えなかった部分が露わになる、という手法がすごい。現実って常に自分の視点でしか見てないから、本当はなにか大切なことが起こっていても、気づかなかったり、見えてなかったりする。そんな当たり前のことを舞台上で完璧に示しているのがすごい。繰り返すことで、登場人物すべての心情が観客に理解できるようになっている。しかし、舞台上の登場人物たちはお互いの気持ちがわからなくて、言い合ったり怒ったり泣いたりする。本当はこの人はこう思っているのに、本当はこんなつもりじゃないのに。本心が相手に伝わらず、間違って伝わってしまい、そのせいでどんどんこじれていく。その様がとてつもなく切ない。好きなシーン、グッとくるシーン、泣けるシーン、笑えるシーンがたくさんある。母と長男の、人一倍傷を抱えているのにどこか超越してしまったかのような有様に感動すらしてしまう。次男や長女とは違う、傷が一回りしてしまったような屈折。そのくせ母は誰より強くて優しい。長男もだ。母が幸せな家族像を思い描くシーン(家族全員で歌うシーン)は泣いた。空想のなかでしか「幸せな家族」というものが存在しない。いびつで、憎み合う家族。そんな現実を前にして、思わず母が空想する。そしてひっそりと泣く。名シーンだ、と思う。人間同士、たとえ家族であっても分かり合うことは不可能に近い。でも、こうしてぶつかり合って、相手に対し怒ったり泣いたり、感情をぶつけ合うことは、決して無駄ではない。しかし、長男のように「言っても無駄だ」と心を閉ざしてしまう気持ちもわかる。正解はどこにもない。なにが真実なのかもわからない。ただ、有り様だけがある。家族はただ存在し、共にいる。

5月の観劇本数は11本。
ベストワンはハイバイ『て』。