4月に観た舞台

テアトル・ド・アナール『従軍中〜(略)』観劇。評判良いみたいなので期待して観に行ったが、面白くなかった。話がつまらないし、「神」とか「言葉」についてのセリフが観念的すぎて頭に入ってこなかった。作品としてダメなわけではなく、単に自分に合わなかったのだと思う。

シス・カンパニー今ひとたびの修羅』観劇。面白かった。任侠の世界に生きる男と、その男を慕う女。男は3年間刑務所に入り、女はその男の帰りを待ってられなくて、ほかに男を作ってしまう。でもやっぱり元の男が忘れられなくて・・・。宮沢りえ演じたこの女の気持ちがよくわかる。女ってそういうもの。いのうえひでのりさんらしい派手な演出もよかった。最後、花吹雪のなかを、新国立の舞台の奥の奥まで、宮沢りえがよたよたと歩いて去っていく場面は、すごくよかった。出演者がどの人もとてもよかった。鈴木浩介さんは相変わらず笑わせてくれるし浅野和之さんもとてもいい味を出していた。風間杜夫さんも親分肌の男を好演していてよかった。小出恵介も若旦那の役を新鮮に演じていた。だが一番はやはり宮沢りえ。彼女の美しさ、迷い、すべてよかった。

『おのれナポレオン』めちゃめちゃ面白かった!やばい、興奮しすぎて窒息しそう!三谷幸喜さんの脚本もものすごく面白いし、なにより役者たちが本当に素晴らしい。どの人も、この人にしかやれないだろうというほどハマっているし、皆が本当にこの作品を愛して大切に一生懸命演じているのが伝わってくる。ナポレオン役の野田秀樹はなんてチャーミングなんだろう。もう野田さんじゃなきゃあり得ない舞台。小さな身体で舞台上を自由自在に動き回り、セリフを言うたびに、動くたびに客を笑わせる。こんなすごい役者がいるだろうか。野田さんには、もっと役者をやってほしい。野田さん演じるナポレオンに相対するイギリスの将軍を演じた内野聖陽さんもすごくよかった。ナポレオンのことを憎みながらも、どこかで軍人として一目を置いている。その微妙で複雑な心理を演じながらも、内野さんらしいどっしりとした大らかさやユーモアも感じさせる。紅一点の天海祐希もすごくいい。美しく艶やかに、でも力強くひらりひらりと、確かな存在感を示す。舞台上での振る舞いがすごく自然なのが清々しかった。

『杮落四月大歌舞伎』第三部観劇。新しくなった歌舞伎座は、綺麗でエスカレーターもついて、新しいお店もたくさんあり、大にぎわいだった。役者もどの人もよく、面白かった。勧進帳の弁慶役の幸四郎がすごかった。後半、弁慶が大酒を飲んで興に乗って大笑いをしたり、踊ったりするのがすごく面白かった。

庭劇団ペニノはこぶね作品『大きなトランクの中の箱』観劇。すげぇ、すごすぎる!ぶったまげた!これを観て打ちひしがれない芸術家がいるだろうか?アトリエ「はこぶね」が老朽化のため立て壊しとなるにあたりはこぶねで生まれた作品『小さなリンボのレストラン』『苛々する大人の絵本』『誰も知らない貴方の部屋』を一連にした今作。はこぶねの集大成かと思いきやそうではなかった。むしろはこぶねの出航に我々は立ち会っているのだ、と感じた。ほんとにこれは2500円とかで観られるようなものじゃない。アフタートークで、一体舞台美術にいくらかかっているのかと質問していた人がいたが、恐らく予算なんか度外視して、タニノさんのやりたいことが全部、美術や小道具まで全部詰め込まれた作品なのだ。そのことにただただ感動した。

マームとジプシー『てんとてん〜(略)』Aバージョン観劇。面白かった。三段階で、出演者を増やしながら最終形態まで仕上げていくという試み。その初日。吾妻橋で観た15分の作品が45分に。あるシーンでの成田亜佑美の表情を見ていたら泣きそうになった。この作品がこれからどのようになっていくのか楽しみだ。

THE SHAMPOO HAT『葛城事件』観劇。楽しみにしていた赤堀さんの新作。期待以上だった。いつものシャンプーのあのじわじわとした嫌な感じが胸に広がる。嫌なんだけど深くて、哀しくて、切なくて、そういうのが真実なんだと思わせる。初舞台の新井浩文、すごくいい。あの役の彼はすごい。赤堀さんが描くのは、絶対近くにいたら嫌だな、と思う人ばかり。今回の新井浩文の役なんて最低の人間だ。ほかの登場人物も、共感できる人は誰もいない。なのに最後にはそんな彼らが愛しくさえ思えてくる。毎回そうだが、主役の赤堀さんがやはり一番光っていた。ラストシーンすごくいい。新井浩文が演じた男について考える。ひどい男はそうなのだが…一体なにがどうなってああなったのか。そして彼の家族…彼らはなんなのか…。答えはないのかもしれない。新井浩文はひどい男を説得力を持たせて演じた。カーテンコールでは打って変わって照れたように笑いながら出てきて、超可愛かった。

Straw&Berry『マリア』観劇。面白かった。死や絶望の気配もそこはかとなく漂ってはいるが、それよりも生きることの喜び、喜びまではいかなくても生を肯定している感じがした。じんわりとした温かさがある。それでいて、変わっていく人の心の残酷さも感じた。生きていれば時間はどんどん過ぎていく。嬉しいことも悲しいこともある。意識していなくても人は変わるし、自分も変わる。前向きに生きていくっていうのは結構難しいことだけど、でも生きてさえいれば、それでいいんじゃないか。とか思った。舞台を左右に分け、かつて付き合っていた男女のその後を描いていく。左側には男が、右側には女が。女は男のことを忘れ、前向きに新しい恋に進んでいく。一方の男は、新しい彼女はできたものの、その彼女にも去られ、もともとの精神病がますますひどくなっていき、絶望している。最後、男はかつての彼女である女に救いを求め、電話をかける。しかし、女はすぐに電話を切り、新しい彼氏に笑顔で向き合う。女の強かさを感じる場面だった。あと毎回のことながら、おまけ演劇も面白かった。

マームとジプシー『てんとてん〜(略)』Bバージョン観劇。Aバージョンと同じ話を、登場人物を一人増やして時間も長くして再構成したもの。面白かった。座る席を前回と変えたら、テントのなかが見えて興味深かった。ちょっと引いて観ると、くるくると動く役者たちが点と点のように見えた。

flat plat fesdesu vol.2』Cプログラム観劇。芝居あり音楽ライブありダンスありのパフォーマンス。なんといってもQの『最新の私は最強の私』がよかった!対照的な女の子二人の性にまつわる話。思春期のころと大人になってからと、変わったところと変わらないところがある。誰しも否応なく大人になって、昔はあったかもしれないピュアなものが失われていくという切なさ。それでも「最新の私が最強」と言い切る強さ。いい。

ブルーノプロデュース『My Favorite phantom』観劇。シェイクスピアハムレットを題材にしたドキュメント?なのかな。役者がそれぞれハムレットとの出会いを叫ぶように語ったり、いろんなハムレットとオフィーリアが出てきたり、ひとつのシーンを別々の役者で延々と繰り返したり。意欲的な試みなのかもしれないけど、私にはあまりはまらず。楽しめなかった。上演時間が一時間半と短かったのはよかった。

マームとジプシー『てんとてん〜』Cバージョン観劇。A、Bバージョンも観ているので、登場人物が一人ずつ増えてエピソードが付け足され、作品世界が深くなっていく過程が観れて、興味深かった。繋がっているのに、全部違う作品にも思える。個人的にはCが一番好き。海外ではどんな反応があるのだろう。

4月の観劇本数は12本。
ベストワンは庭劇団ペ二ノ『大きなトランクの中の箱』。