11月に観た舞台

青年団『アンドロイド版三人姉妹』観劇。面白かった!チェーホフの『三人姉妹』を近未来の日本に翻案したもの。三人姉妹の三女役をアンドロイドが、一家の執事役をロボットが演じる。空気を読まないアンドロイドの発する言葉でその場の人々が凍りついたりジタバタする様が面白い!実は伏線があって・・・。ロボットやアンドロイドが演じていても、描かれている人間の感情の襞は変わらない。トラウマだってある。アンドロイドの発するドキドキするような台詞のあとの急展開がいい。アンドロイドやロボットの技術もさることながら、アンドロイドやロボットが登場する『三人姉妹』という平田オリザの脚本がやはり巧みだなと思った。チェーホフの原作とは全然違う話なのに、『三人姉妹』だ、と強く思った。個人的には、これからどんどん年をとる親のこと、もし親が死んだら・・・ということ、そういう場面ではあてにならなそうな兄弟のこと、長女としての自分のこと・・・などを考えてしまった。そういうことを考えるとどうしても暗くなる。けどそれも含めて「生きてる」ってこと。『アンドロイド版三人姉妹』で描かれる近未来の日本は、どうやらかなり生きづらい、希望のない国になっている。それは今もそうかもしれない。だけどそんななかでも人間は生きていかないといけない・・・。「食べなきゃ、私たちは」。そう、食べていかないと、働かないといけないのよ・・・。長女がぽろっと口にするように、ロボットがすべてをやってくれる世の中になったらどうだろう。ロボットが人間のかわりに働いてくれ、考えてくれる。そうしたら人間の生きている意味は?自分で働くことはおろか考えることも必要なくなったら、そこに生きる意味があるのか?結局、どんなに科学が発達しても、人が生きていくということの原点は変わらないのだろう。人はこうして生きていく以外にないのだろう。労働し、日々の糧を得る。毎日がそのように過ぎていく。それは空しいことなのではなく、当たり前のこと。それが生きる営み。・・・と、諦めがついた(?)。

岡崎藝術座『隣人ジミーの不在』観劇。面白かった。前作より見やすかった。夫婦の噛み合わないやりとりは笑えた。ほかにも笑えるシーンがたくさん。最後のシーンも面白い。全体的にはよくわからないところもあったが、それも含めて楽しめた。

『上海異人娼館』観劇。うーん…退屈だった…。やたらと歌が多く、話がなかなか進展しないのに苛々。最後の毬谷様の歌は素敵でしたが。

ジエン社『キメラガールアンセム/120日間将棋』観劇。途中まではリラックスして観れたんだけど途中からきつくなった。ストーリーもないし、題材となってる将棋のことをなにも知らないし…。いろんなことが描かれていたけど、興味が持てなかった。。。ジエン社は、最初に観たときにめちゃくちゃ面白い!と思って、その後2〜3度観ているのだが、どうも最初に観た時ほど面白くない。うーん。そのスタイルに慣れたからか?テーマや話の面白さを感じられないからか?いずれにせよ、今回の公演はいまいちだった。

村川拓也『言葉』観劇。村川拓也と2人の出演者が被災地をめぐったときのことを「言葉」にする試み。いくつか面白い仕掛けもあったし「言葉」もよかったのだけど、全体的には退屈。構成にメリハリがなく、時間が長く感じた。語られている「言葉」が入って来なくて流れて行くように感じられた。村川拓也は、前作『ツァイトゲーバー』がよかっただけに残念。まだ創作本数が少ないようなので、これからの人なのかな。今作は挑戦的ではあるけれど、作品として観ていて面白いかというと微妙だなと思った。

『レヒニッツ(皆殺しの天使)』観劇。ドイツの有名な作品らしいが難解。よくわからず退屈した。題材となっていることへの知識や教養、興味がないと入りこめないだろう。膨大な量の抽象的な台詞にとにかく圧倒され、疲れました。俳優がときにコミカルだったりコケティッシュだったりするのが楽しい。

ハイバイ『霊感少女ヒドミ』観劇。映像には引き込まれたけど、思ったほどは楽しめなかった。個人的な問題だけど、集中できなかった。短いのがよかった。

池袋コミュニティ・カレッジ青年団の演劇入門』特別公演2012『パズルが解けない』観劇。友人2人が出演していたので観に行ったのだが、これがすごく面白かった!青年団の会話劇そのもの。カフェを舞台に、そこに集う人たちの断片的な会話から、大きな一枚の絵が描かれていくような感じ。田野邦彦による脚本も秀逸なのだが、出演している人たちが皆うまかった。聞けば、ワークショップで自分の役を作り込んでいったのだとか。確かにその人にしか出せない味を感じさせる。なかでもケン様は、カフェに一人でいる時間が長いのだが、ごく自然に過ごしていた。携帯をいじったり、こっそりほかのお客さんをデッサンしたり。ひとりでいる時間が長くどういう人物か謎なので、最後のほうで台詞を発したときはドキッとした。おじちゃんとの会話もいい感じだった。そしてロバン先生は、出オチかというくらい会場の笑いをかっさらっていた。「『ベルサイユのばら』から学ぶビューティフルライフ」の講座の講師。・・・って、どんな講座やねん!フランスやフランス語に長けているがどこかいかがわしいところのある人物。非常に人間味を感じた。ケン様もロバン先生も、おそらくはほかの人も、普段の自分のキャラクターを生かした役作りだった。それはたんに普段通りに演じるというのではなく、「人から見える自分」というものを意識し、そこからさらに濃い「キャラクター」を作り上げていったのではないだろうか。『パズルが解けない』で、役者ではない人たちがわずか数カ月で舞台に立った姿を観、いろいろ感じることがあった。実際にそういうことができるんだという新鮮さ。こんなに上手に演じることができるんだという驚き。彼らに対する羨ましいという気持ちもあった。しかし、この講座は、半年間隔週で日曜日に通わなきゃいけない。現実問題、やってみたいと思っても、なかなかそんな時間はとれないわけで。しかし出演した友人たちは仕事もしてるし家庭もあるしで忙しいはずなのに、本当にやりたいことのために時間を捻出したのだ。その熱意、なのだ。私に欠けているのは。

ヒッピー部『あたまのうしろ』観劇。いろいろ興味深く、最初のほうは面白いと思ったが、観続けるうち退屈に…。空間現代による音楽はよかった。

白井晃演出『4 four』観劇。面白かった。5人の男たちのモノローグ。死刑囚、刑務官、裁判官、法務大臣の4つの役を演じる男たち。そのうち、彼らが何者なのかが明らかになる・・・。役者がどの人も素晴らしく、ストーリーらしいものがあるわけでもないのに、モノローグを聞いているだけで面白い。川村毅による脚本も面白いし、箱を散りばめて置いた客席(舞台)の作りも面白い。役者がすぐ後ろを歩いたりする。舞台との境界がまったくない。「俳優の力」をすごく感じた。この5人でなければダメだっただろうと思わせる。とにかく俳優の台詞を聞いているだけで情景が想像できた。

三浦基演出『光のない。』観劇。辛かった。抽象的な内容、断片的なテキスト。観ていて面白くなく、退屈だった。

BATIK『おたる鳥をよぶ準備』観劇。私の大好きなBATIKの新作ということで、観る前は「これが今年のベストワン舞台になるかもしれない」というくらいの覚悟で観に行ったのだが、うーん、いまいち。いつものBATIKはもっと激しく限界まで踊る感じなのだが、この作品はそうでもない。前半はとにかく長い。次々といろんなシーンが展開されるが、ストーリー性もなく、ダンスを激しく踊るわけでもなく、観ていてあまり面白くなかった。照明が暗いシーンが多く、結構な部分寝てしまった。後半の黒田育世のソロダンスはよかった。あれをもっと激しくやってくれれば。

ポツドール『夢の城』観劇。凄まじかった。初演よりすごい。完膚なきまでの傑作。完敗だ。放心してしばらく動けなかった。初演も観ていて内容知ってるはずなのに、ものすごく衝撃的だった。初演を超えている。ヨーロッパ公演を経て作品の強度が上がった。初演を観たときは感動と衝撃と反発とがごっちゃになっていた。どう受け止めていいのかわからなかった。もちろんこの作品が傑作だからなのだが。初演時に感じたものも、ものすごく大切にしたい。でも今回の再演時に感じたことも、大切にしたい。再演は自由席だったので迷わず最前列で観た。初演は真ん中くらいの席だったので、下で寝たりいろいろやったりしているシーンがよく見えなかったのだ。最前列はやっぱりいい!冒頭のシーンからラストまで、食い入るように観た。部屋の美術が面白い。切り抜きの女のヌードだらけの部屋。そこにいるギャル男とギャルの獣のような生態を覗き見しているうちに、最初は「あり得ない!」と思えた彼らのユーモアとか可愛さとかの人間性が見えてくる。役者っていうのは本当にすごいよなあ、と思う。特に遠藤留奈にはびっくり。ここまでやるのか?という役者魂がすごい。ほかの役者ももちろんすごかった。男優はいつもそうだが、今回、女優もびっくりするほど体を張っている。ポツドールでここまでやってるのは初めて観た。1997年に早稲田でやっていたポツドール公演をたまたま観たのが、私が演劇にはまったきっかけだった。ポツドールのような演劇を観るために私は演劇を観続けている。今日観て、自分は演劇を観続けなければ、と思った。初演から6年経って、作品も三浦さんもとてつもない成長をとげているのが感慨深い。それに対し自分は退化してるんじゃないだろうか・・・とか思ってしまった。少なくとも胸をはって「この部分は成長した」と言えるところはない。それにしても三浦大輔という才能は圧倒的にすごい。

11月の観劇本数は13本。
ベストワンはポツドール『夢の城』。