9月に観た舞台

『東京福袋』観劇。コープス『飛行隊』は以前水天宮ピットでも観ているものだったが、相変わらず面白かった。まさかのお方が舞台上に上げられていて、大いに笑わせていただきました。いきなり舞台上に上げられて、なにもわからないままあのパフォーマンスをこなさなきゃいけないって、相当ハードル高い。珍しいキノコ舞踏団は、ダンスだった。いつもより遊びが少なかった?なんかフツーのダンスだったな。柿喰う客『いまさらキスシーン』は初演も観ている。初演より完成されていると思ったが、初演のほうが若々しさがあったような気も。東京デスロック『カウンセリング』は、初見の人にとっては「?」だと思う。。。『モラトリアム』から続いている、デスロックの東京復帰に向けての三部作のひとつだ、とわかって観ている人にとっては全然アリな公演なのだが。

『東京福袋』観劇。スタイリッシュなパフォーマンスで魅せる冨士山アネット。それとは対照的に、モモンガ・コンプレックスはおバカでキュートなパフォーマンスを披露。遊び心満載で楽しい。アマヤドリはよかったけどあの続きを観たくなった。長編のほうがいい。今日のなかでは表現・さわやかが一番面白かった。普段から短編をやっているから、かなり巧みな作りになってた。役者面白い。ただ当然だが本公演の濃さはなかった。初見の人向けに作られたという気がした。

『東京福袋』観劇。吹越満のソロアクト初めて観たけど面白かった。『ヒッキー・ソトニデテミターノ』が楽しみ。山田広野さんの活弁も面白かった。3軒茶屋婦人会は笑った笑った。篠井英介がほかの仕事が押してて来られない、というまさかのハプニング。そんななか前向きに楽しく奮闘する大谷さんと深沢さんに感動。篠井さんが来られなかったのは残念だけど(途中までそういう演出かと思ってた)、パフォーマンスは十分面白かった。そして、近藤良平のパフォーマンスが超面白かった!キテたよー!近藤さんだからってダンスだけなわけがなく、ピアノは弾くはギターで歌うわ、自由自在。ダンスも珍しいのを披露してくれました。ピアノの弾き語りで東京芸術劇場のリニューアルを祝ってたんだけど、そのときのセリフに笑った!3日続けて『東京福袋』を観たが、今日が一番面白かったな。残念ながらほかは観られない。でも、いろんなパフォーマーが集って表現することで劇場のリニューアルを祝い、劇場を盛り上げていく、って、いいな。人が空間を作る。それは観客も含めて。時を経るとその空間はさらに味わい深くなるのだろう。そして今日は野田地図の初日でもあった。ちょうど東京福袋が終わってエスカレーターで上に上がると、野田地図を見終えた人たちがエスカレーターで降りてきた。ああ繋がってるな、と思った。ひとつの劇場で複数の公演をやってるって、なんかいいな。今日の芸劇はそんな幸せな雰囲気に満ちていた。あ、さっきから「芸劇」って言ってるけど、近くの居酒屋の店員は「東劇」って言ってたな。その店員は芝居なんて観に行かなそうな人だったけど、「東劇」と口にしたときはなぜか誇らしげだった。ラーメン店の店員も電話で「東京芸術劇場の近くです!」と誇らしげに言ってた。地元の人の誇りになるといいな。

村川拓也『ツァイトゲーバー』観劇。面白かった。身体障害者とその介護者。介護者は実際にそうした仕事をしている人が演じているからリアリティがある。身体障害者役はなんと観客が演じた。観客自ら立候補したとはいえ、舞台の空気を損なわずに堂々とした演技をしていた。面白いと思ったのは、素人である観客が舞台に上げられ、上演時間中ずっと役を演じていること。客いじりで舞台に観客が上げられることはよくあるけど、始めから終わりまで観客が舞台上で役を演じなきゃいけないという舞台は滅多にない。これがドキュメント演劇、なのか。だからこそ、この舞台に参加する観客は重要だ。村川さんが客席から立候補者を募る。しかし、普通の観客はなかなか立候補しないだろう。立候補するのはリピーターか役者なのでは・・・と勘繰ってしまう。しかし参加する観客がどんな人であろうとも、一回こっきりの舞台ができあがることは間違いない。それぞれ違った空気の、全然違った舞台になることだろう。そういう現象が面白い。介護者役が本物の介護者というのも、ドキュメント性を増していた。ほんとにああいうことをやってるんだろうな、と想像できた。言葉がしゃべれない被介護者の言いたいことを引き出すため「あかさたな・・・」と話したり。車椅子から降ろして体を抱きかかえるときは汗だくに。しかしどこまでがドキュメントなのかわからなかったのも事実で、それは先日ブルーノプロデュースを観てから考え続けている「演劇でやるドキュメントとは?」というテーマ(?)にも通じるんだけど。なんか介護者役の汗や必死の仕草も全部演技と言われればそうかとも思うんだよね。どこまでが事実かわからないのがドキュメント演劇。だから今日の被介護者役の観客がどういう人であったとしても(仕込みの役者とかだったとしても)、ドキュメントとしてこちらは観ているから、ただただその人が演じている空間、時間を感じるのが面白かった。

池田扶美代×ティム・エッチェルス『in pieces』観劇。つまんなかった。あまり踊りもせず地味だし、延々続くパフォーマンスは退屈だった。メッセージも伝わらず入りこめず。

文学座『エゲリア』観劇。岡本かの子と、夫の一平をはじめとするかの子を支えた男たちをユーモラスに描いたもの。奔放すぎるかの子や寛容すぎる一平に共感はできないが、コミカルに描かれているので話に入りやすい。だがかの子が奔放な芸術家というよりはただの我儘な女に見えてしまった。岡本一平は、妻のかの子が愛人を作ったことを容認し、そればかりか同居する。この寛容さはなんなんだ・・・わからない。そこに嫉妬とかの激しい感情はないのか。すでに妻への思いは恋愛感情とは違うものになっているということか。芸術家として尊敬している、ということか。岡本かの子は、夫、愛人、そして下宿人の男に囲まれ、彼らに小説創作の手伝いをしてもらう。20年ともに住んだ下宿人が結婚して出て行くと言い出したときは、取り乱して「行かないで」と泣いてすがったりする。なんか女王様でいたい人なのかなーとか思ってしまった。。。芸術家としての岡本かの子というより、女としての岡本かの子に焦点を当てたという感じがした。芸術家の苦悩を表現する・・・というまではいってなかったかな。かといって女としての葛藤を生々しく描いているというわけでもない。表層的な感じ。でもつまらなくはない。

アマヤドリ『フリル』観劇。広田さんの新しい試み。まだ完成されていない気はしたが興味深かった。ひょっとこ乱舞とは全然違う静かな芝居。セリフをじっくり聞かせる。わかりやすいストーリーがないから入りにくいかもしれないが、セリフを聞いているだけで面白かったし描かれるエピソードも興味深い。

マームとジプシー『ワタシんち、通過。のち、ダイジェスト。』観劇。すごかった。ストレートに響いてくる。滲みた。泣いた。解体されてゆく築100年の家と、そこに住んでいた三人きょうだいとその周辺の人たちの物語。なんかストレートにきたな、と思った。ここ最近いろいろスタイルが変わってきていたけど、また戻った感じで、でもさらに深くなっている。マームとジプシー観て、被災して解体を余儀なくされた自分の実家のことを思い出した。中高時代を過ごしたあの家は、もうどこにもないんだ・・・。失ってしまった家やモノ、過ぎ去ってしまった時間、変わっていく家族・・・。マームが描いているのは、そこにある埋めようのない喪失感と諦念だ。だからこそ、「きっと帰れるよ」の台詞に希望を感じ、ブワッと涙が出た。あの台詞はどういう意味だったのだろうと考える。もう帰る家はないけど心のなかでは帰れるよということなのか。単に男が彼女を慰めた言葉なのか。どっちにしても温かい言葉であることに間違いない。人にはみなそれぞれ「思い出」があり、それはその人のかけがえのない輝かしい宝なのだ。そんな当たり前のことにマームを観て改めて気付く。日常の機微を掬い取る作劇、見事。私は自分の実家が解体される前に、最後に家を見に行った。皆引っ越して誰も住んでいない家は廃屋のようになっており、震災で壁が派手にひび割れ、お風呂が壊れていた。あのとき家は自分の役割を終えて解体されるのを待っているかのようだった。家はどんな気持ちだったのだろう・・・。父は震災後すぐに新しい家を買い、家族はそこに引っ越した。今では被災した家は解体され、皆新しい家で犬を飼い始めたりして、表面上は何事もなかったかのように暮らしている。あの家はもうない。そして家族は変わってゆく、時間は容赦なく過ぎて行く・・・。

ONEOR8『そして母はキレイになった』観劇。面白かった。重いけどユーモラスで、そして深い。一筋縄ではいかない人間の心の闇を描いている。過去と現在を行き来する構成が巧み。夫と娘二人を捨てて男と出て行った美しい母。残された父がまだ小学生の娘たちについた嘘に涙した。美しい母役の高橋惠子さんが素敵。たおやかで歩き方も仕草も美しい。父役の山口森広さんは捨てられた者の切なさと悲しさを感じさせる。下の娘の夫役の小野健太郎くんがすごくいい味を出していた。変わり者の役なんだけど、オノケンのようなイケメンがやると爽やかだ。

月蝕歌劇団花と蛇』観劇。刺激が強い。本物の緊縛師も出てくるし、公開SMショーを見てるみたい。最後の逆さ吊りはすごい。あんなふうに縛られてみたい。静子役の三坂知絵子は脱いだり過激なシーンを体当たりで演じた。松村翔子さんが出ているのがすごく新鮮。

『あなた自身のためのレッスン』観劇。面白かった。不思議な劇。記憶喪失の家族が再生するためのリハビリテーション、だと思って観ていると、途中からどんどんわからなくなっていく。なにがホントでなにがウソかわからない感じが面白い。清水邦夫の脚本が面白すぎる。市民ホールの舞台上に客席を作り、その場で演じるのも面白い。舞台の上から、誰もいない客席を眺めながらの観劇…すごく不思議な感じ。最後には登場人物が本当に亡霊のようにも見えた。役者はどの人も素晴らしかった。特に得体の知れぬ管理人夫婦を演じた中村まことさんと大川潤子さんがよかった。二人の掛け合いは実に生き生きしている。二人がいきなり劇中劇をするシーンが好き。最後もミステリアスでいい。ダシダシパムパム。

快快『りんご』観劇。めちゃくちゃ面白かった!明確なストーリーみたいなものはないけど、ひとつひとつのシーンがとにかく面白い!ドキュメント的な要素もある。後半すごい。演劇の熱さよ!初めて小指値を観たときの楽しさや遊び心はそのままに、技術や表現力が格段に上がっている。やはりこの人たちは面白い。メンバー一人一人が面白いし、彼らの作る作品は面白い!

tsumazuki no ishi『HEAVEN ELEVEN OF THE DEAD』観劇。ところどころ面白いシーンはあったものの、全体的にはいまいち。ゾンビたちが出てくるシーンがよくわからない。話が面白くない。役者はよかった。特にコンビニ店員役の津村知与支さんがよかった。

柿喰う客『無差別』観劇。いつもの柿と作風が違う。シリアスで重いお話。物語をあまり把握できず、楽しめなかった。

東京タンバリン『鉄の纏足』観劇。面白かった。職場での人間関係。みんながちょっとずつ悪意を持っている。それは誰もが持ち得る悪意だ。だが複数の人の悪意が積み重なったとき、事態は歪んだ方向に行ってしまう。誰もに共感できるし、普通に起こり得ることだと思う。だからこそゾクッとする。

contact Gonzo『Abstract Life《世界の仕組み/肉体の条件》』観劇。体験型パフォーマンス。暗闇のなかいろんな音が聞こえてくるのは、なんともいえずいい。ほんとに山のなかや水のなかにいるような感じがする。振動がすごい。周りの空気が変化する感じ。

『浮標』観劇。日中戦争の時代、日々の生活を必死に生き抜く市井の人々を描く。自分なりの信念を持ち、恥をかくのもものともせず、ひたむきに人生にぶつかっていく主人公を田中哲司が熱演。素晴らしかった。才能ある画家であり、病気の妻を必死に看病する。妻を喪う恐怖に我を忘れる姿に心打たれた。田中哲司の台詞がすごくいい。「死んだら終わりだ。どんなに苦しくても生きて生きて生き抜くんだ」。その通りだ。勇気をもらった。

野田地図『エッグ』観劇。すごく面白く見応えがあった。メタ演劇の構造で、軽やかに息つく暇もなく進んでいく物語に我を忘れて見入っているうちに、重いテーマがふいに現れる。「過去を忘れてはならない」と改めて痛感させられる。頭をフル回転させて演劇を観るのは、なんて刺激的で楽しいんだろう。

悪魔のしるし『倒木図鑑』観劇。わけわからなくて面白かった。演劇に対する熱い思いがやたらと伝わってくる。KAATという劇場への想いも感じさせる作り方が巧み。いろんな仕掛けが利いていてセンスがある。

ゴキブリコンビナート『ちょっぴりスパイシー』観劇。私はアゴラでやった初演も観ている。相変わらずセットがすごい。下水処理の男たちの話なので、水路から泥水がばんばん飛ぶ。はあ、楽しい。しかも台風でテントがガタガタしてるし、雨の音がすごくて台詞が聞こえなかったり。楽しすぎ!

9月の観劇本数は20本。
ベストワンは野田地図『エッグ』。