7月に観た舞台

ままごと『朝がある』観劇。太宰治の『女生徒』をモチーフに、女子高生の朝のワンシーンを描く。ストーリーはないんだけど、同じシーンを何度も演出を変えて繰り返すのが面白い。音や光や動きが入り、あるシーンがどんどん生き生きしていくなかで、でも一番感じたのは言葉の力。リズミカルな言葉がいい。一人で演じた大石将弘さんがすごい。女子高生の話なのだけど、合間に男性の視点でのモノローグが入る。そのシーンがすごく印象的で好きだった。「朝がこなければいいのに」「ずっと寝てられればいいのに」「世界は敵」「自分はダメだ」等、ネガティブな思考だが私にはそのほうがリアル。やっぱり言葉に力のあるものは好きだな。台詞と動き、映像、音との重なり合いが、すごく心地よかった。なんてことない台詞なのに、ぐっと響いてくるこの力。文庫本『朝がある』も読んだが、やっぱり言葉が面白い。ところで太宰の『女生徒』って、昔のものなのに文体がすごく革新的だね。『朝がある』での男性のネガティブな鬱っぽい発言のシーンで、客席から結構笑いが起こっていた。私はリアルに今の状況なので笑えず。世の中、こんな状況を笑えるほど、そうした状況とは無縁のおめでたい人ばかりなのか?と思うと、なんかびっくりするね。そもそも普通の人は鬱じゃないもんね。『朝がある』に登場するゆう子さんが好き。舞台ではよくわからないかもしれないけど、文庫を読めば背景がわかる。文庫読んでて、これって詩だな、と思う。柴さんの、日常を掬い取った詩的な言語表現が好き。ずっと触れていたくなる言葉たち。何気なくこんな言葉づかいをできる人はそういないだろう。

範宙遊泳『東京アメリカ』観劇。すごく面白かった。芝居をやっている人たちの話で、劇中劇みたいに進んでいくんだけど、後半になるとさらに夢か現実かもわからなくなり、ぐちゃぐちゃになる。そのぐちゃぐちゃぶりと終わり方がすごい気持ち悪くて好き。実は構成がしっかりとできていると思った。

悪い芝居『カナヅチ女、夜泳ぐ』観劇。劇団初見。全体的には好きな感じではなかったが、セルフでいくつか響くものがあった。人生と時間の関係とか、東京に出てきた意味とか、自分と置き換えて考えてしまう。途中、主人公以外の男が主要な役どころになってからの展開が長いと感じた。ある男優が役とは関係なしに目立ってて、やたらと笑いをとりにきてるから(私は笑えず)、てっきり昔からいる劇団員なのかと思ったが、当パン見たら客演だった。なんかバランス悪かったな。ところどころで彼が語るセリフはすごくいいんだけど。なんだろう、ストーリーとの絡めかたなのかな。

シンクロ少女『少女教育』観劇。複数のエピソードが交錯して展開し、だんだん各エピソードの繋がりが見えてくるという構成。それぞれのエピソードは日常的な恋愛の話で、観やすい。最後まで退屈させずに見せる力がある。ただ目新しさはなかった。途中やたらと笑いすぎの客がいた。

木ノ下歌舞伎『義経千本桜』観劇。面白かったー。全部よかったけど、特に『吉野山』からラストにかけてが好きだった。静御前役の中林舞と狐役の間野律子のダンスがめちゃくちゃよかった!『吉野山』は歌舞伎でもありダンスでもある感じが好みだった。ラストはお祭り騒ぎみたいな感じもあってよかった。多田演出は、歌舞伎でありながら現在の日本をも感じさせる。山崎晧司の存在感たるや素晴らしい!ラストがめちゃくちゃかっこよくて痺れた。高橋ゆうこの一本筋の通った凛とした感じも素敵。声もよく出ている。ほかの役者もみなよかった。役者が立っていた。杉原演出は、一番現代にも通用する感じで観やすかった。話もわかりやすく、面白く、しかも現代の解釈も加えてあり、すごく親切な作品。ラストが長かった感じもしたけど、訴えたいことはよくわかった。

空想組曲組曲「回廊」』観劇。短編集だったせいか、あまりまとまりがないように思った。メインとなっているエピソードは最後まで観るとホロリとさせる。ほかのエピソードも面白いものがいくつかあった。だが全体としては長く感じた。

ナカゴー『黛さん、現る!』観劇。途中まではうーんという感じで観ていたが、まさかの展開になってからが面白かった。相変わらず墨井鯨子の暴れっぷりがすごい。

Nibroll『see/saw』観劇。オープニングがすごく好き。映像に幻惑され、ダンスに興奮し、音に痺れた。その後、たくさんの失われたモノたちと人々が登場し、震災を彷彿させる。絶叫のように悲鳴を上げる人々に圧倒される。ボロボロの服を纏い、様々なパフォーマンスをする。惹きつけられた。あの舞台装置、というかあの空間がすごいよかった。終盤は息もつかせぬ勢いで魅せる。生身の役者の身体と、鋭利な音、研ぎ澄まされた映像表現を堪能。テーマ性もあり盛りだくさんな内容で、終わった後は観ているこちらまでぐったり。心地よい疲労でした。

ハイバイ『ポンポンお前の自意識に小刻みに振りたくなるんだポンポン』観劇。初演観てるけど全然内容覚えてなかった。こういう話だったんだー。一本のストーリーがあるというより、複数のエピソードで成り立っているような構成。ストーリーより、場面場面のインパクトが強烈な芝居。振り返ると面白い。複数のエピソードのなかでも劇団橋本物語のエピソードが強烈に面白い。岩井さん演じる胡散臭い演出家・橋本最高!執拗に繰り返されるコンビニのエチュード・・・こういう細部を描くことにこだわっているから面白いんだなと思った。駆け出しの演劇ライターが、なぜか劇団橋本物語を取材することになり、稽古場に赴く。そこで主宰者の橋本だと思ってインタビューしてたら、実は橋本の真似をしている役者だったというエピソードがすごく面白かった。インタビューの場面は、自分を見ているようだった(笑)。荒川良々は、思ったより目立ってなかったな。まあ芝居に馴染んでいたということかな?変に悪目立ちしたらダメだしね。でも大人計画とかでのぶっ飛んだ荒川良々のほうが好きだなー。なんか物足りなかった。。。酔っぱらって帰ってきた夫にキレる妻に共感してしまい、なんか複雑な気分に。。。男女ってなんでああいう感じになってしまうんだろう。しっかりしない男に対して女が怒る・・・というのは、どこも共通なのかな?怒りたくないというか、怒らせてほしくないのに。ハイバイ見て、自分も演劇とかやってみれば鬱を克服できたりコミュニケーション能力が向上したりするんじゃないか・・・とか思った。とはいえ橋本物語みたいな劇団には入りたくないけど(笑)。私でも出れそうな演劇ないかなー。青年団のワークショップとか参加したら面白かったかな。

パルコ・プロデュース『露出狂』観劇。面白かったー。初演の女性版も観ているが男性版もいい。好みとしては女性版のほうが好きだけど(綺麗な女優さんを観るだけで満たされるから)。でもストーリーが面白いから、バージョンが変わっても全然面白い。物語の力は大きい。役者もそれぞれよかった。役者では、クラゲ役の人がすごいなー、と思って見ていたのだが、玉置玲央くんだということに気付かなかった!だって暗いし、髪型も全然違うし・・・。でもやっぱりすごい役者なんだなと思った。ガマゴオリ役の板橋駿谷くんも、すごい存在感。ほかの人もみんな美形で観ていて楽しかった。初演のときの配役を思い出しながら見ていた。ヒル役の深谷由梨香はよかったなー、とか。今回のヒル役の入野自由くんもよかった。あとシラミネ役の畑中しんじろうくんはイケメン。しかもアフタートークに乱入してギャグをかましてくれたりなど、面白いキャラ。

7月の観劇本数は10本。
ベストワンはNibroll『see/saw』。