5月に観た舞台

蜷川幸雄演出『海辺のカフカ』観劇。休憩いれて四時間の長丁場だったが飽きなかった。面白かった。動く装置が新鮮。キャラクターも違和感ある人はいなかった。大島さん役の長谷川博己がすごく素敵!あの役に合ってる。ナカタさん役の木場勝己も合ってるなあ。うまいなあ。主演の柳楽優弥は体張った熱い演技。真っ直ぐさに好感。セックスシーンが直接的じゃないのに官能的で、よかった。佐藤江梨子もよかった。それにしても、舞台に立っている長谷川博己を見ていると、なんでこんなにかっこいい人が存在するんだろうと思ってしまう。奇跡だ。スラリとした長身で舞台映えする。そしてちょっと病的なぐらい痩せていて、色白で、髪が長め。今回は中身は男だけど性別は女の役なので、かなり中性的な雰囲気。長谷川博己は指が細長いので、カフカに触れたり肩を抱く仕草がかなりセクシー。というかエロい。大島はカフカに対し普通以上の好意を持っていたのだろうと思わせる。長谷川博己は背が高いので、なにを着ても似合ってかっこいい。ゆったりとしたストライプのシャツにサングラスをひっかけ、細身の白のジーンズにスニーカーで登場したときは、卒倒しそうなほど素敵だった。最後雨のなか傘をさしてオシャレなネクタイをして出てくるのもいい。図書館の受付にいる長谷川博己は、いつも長い足を組み、頬杖をついて、細長い指で鉛筆をくるくるさせている。その仕草がはまっていた。とにかく長谷川博己の一挙手一投足に目が離せない舞台だった。長谷川博己が理屈っぽいセリフをとうとうとしゃべるシーンが好き。小説のなかで、大島が自分が女性だと言うシーンがすごく好きなんだけど、舞台でもそのシーンの長谷川博己が実に素晴らしかった。知的で毅然としていてかっこいい。ハセヒロがもうちょっとふっくらしてたら、ボーイッシュな女に見える。長谷川博己はほっそりとしていて撫で肩で、なんかナヨッとしている。指先の動きが官能的。こんなにゲイ役が似合う人もいないだろう。長谷川博己綾野剛かという感じだね。とにかくハセヒロの魅力を満喫しました。大島さんは銀縁メガネをかけたり外したりするのだけど、ハセヒロは銀縁メガネがすごく似合う。そして、笑うとえくぼができる。姿勢がよく、歩き方が素敵。舞台からはける後ろ姿もすごく雰囲気がある。いつも心にハセヒロを。

マームと誰かさん・ひとりめ『大谷能生さん(音楽家)とジプシー』観劇。「音」と「今」を描いた芝居。面白かった。常に「今」の音を聞いていたい。また、自分のなかにある記憶の音にも、耳を傾けたい。音は記憶される。今聞いた音は、次の瞬間にはもう「記憶」になる。生きるってそんな刹那だ。

月刊「根本宗子」第6号『恋に生きる人』観劇。面白かった。彼氏に元カノと浮気されてしまう女の子を演じた大竹沙絵子さんがよかった。浮気を疑う辛さや悶々とした感じが伝わってくる。浮気の証拠を得るために彼女がとった行動がすごい。だけど切羽詰まると女はここまでやるだろう。携帯見たりとかね。元カノ役の新谷真弓さんが、最初は嫌な女の役なのに、だんだん面白い女に思えてきて、最終的には「こいついい奴じゃん」と思えてしまうのがすごい。西山宏幸さん演じるダメ男も愛嬌があっていい。「30歳なのに赤ちゃんみたいで可愛い」という元カノの台詞に納得。ダメだけど可愛い。終わり方がすごく素敵。ダメダメな男と女が、いろんな修羅場を乗り越えながら、互いを必要としている感じがすごくいい。すったもんだあっても、いいカップルだな〜と思った。

劇団桟敷童子『軍鶏307』観劇。戦後の日本、皆が苦しく貧しかった時代に、這う思いをしながら生きている男や女たちを描いた骨太な物語。夫や息子が戦死したり、米兵に乱暴されたりなど苦しく辛い経験をした女たちが、だんだん強くなっていくのがいい。男たちが飛行機作りに協力するシーンが好き。

箱庭円舞曲『どうしても地味』観劇。タイトル通りいつもに比べると地味な話で、いつもの箱庭のような話の展開の面白さやスピード感はあまりなく、登場人物がまったり話すシーンが多い。それだけに最後のシーンが結構くる。なんで生きてるんだろう、なんで仕事してるんだろう…とか考えてしまった。

TPT『ベルナルダ・アルバの家』観劇。抑圧された女たちの物語。自由な空間、蝋燭を使った演出が、芝居の雰囲気をじっとり伝える。暗く重く、でもそれを解き放つような音楽に引き込まれる。原初的な力がある。女優たちの演技もいい。とりわけアデーラ役の森ほさちがよかった。美しく凛として愚か。

乞局 奇譚集2012『EXPO』観劇。すごく面白かった!万博をモチーフに日本人の生活の変遷を時代ごとに描いたもの。5つの時代の話が出てくるが、特にバブル時代のバカップルの話が面白すぎて爆笑。下西さんのユーモアセンスすごく素敵。中島佳子さんはあの時代の格好がやけに似合っていた。

唐組『海星』観劇。なんかパッとしない感じ。話も演出もいつもより地味。若手の役者が多く、わりとメインの役で出ており、ベテランの役者たちの見せ場が少ないせいだろう。しかも若手で花のある役者がいない。演技は皆うまいけど、インパクトがないというか。唐さんの出番も少ない。女装は笑ったけど。

東京デスロック『モラトリアム』観劇。時間と空間を観客に体験させようという貴重な試み。皆、その場にあるゲームをしたりDVDを観たり本読んだり寝たりと思い思いのことをしていた。私は最初は面白かったけど、途中からまったりしてきて、二時間半で退場しました。自分で時間を決められるのがいい。あのダラダラした空間に居続けることができなくて早めに退場してしまったけど、ずっと居たら居たで面白かったかも。でも、たぶん、今の私はそういうモラトリアムを享受する心の余裕がないんだろうな。うん。そういうことだ。だからきっぱり自分で決めて退場した。

東京タンバリン『婦獄百景』観劇。3人の主婦のそれぞれの家庭の事情を描いているのだけど、主婦として女としての生き方のみに留まらず、人間が日常生活を送ることの窮屈さとしんどさを痛切に描いている。日常生活は、逃れられないのが恐ろしい。生活のための仕事、家族などのしがらみが恐ろしい。芝居としてはそれほどインパクトのある作品というわけではないのだけれど、自分が最近考えていたこととシンクロする部分があって、興味深かった。日常生活を送ることの困難さ。皆、些細なことで不安になったり絶望したり嫉妬したりしながら、なんとか日々をやりすごしてる。『婦嶽百景』の当日パンフで、作・演出家はこう書いている。「ほとんどの人は 毎日働いて いい事より嫌な事が多くて 些細な事で怒ったり喜んだり、嫉妬したり そんな取るに足らない出来事の積み重ねで 生活が 大げさにいうと人生が 出来上がっている」。うん。そうだよね。日常生活が嫌なのは、それが延々と続いていくということと、仕事や家庭などの人間関係が自分自身では断ち切れない、ということの二点にある。この二点は同じことで、血縁が断ち切れないものだから延々と同じ生活が続いていくのだ、ともいえる。お金を得るためにしなきゃいけない仕事も同様に続いていく。まず生きていくためにはお金が必要であり、普通の人は自ら働いてお金を得ないと生活できない。つまり日常生活を送るためには働かないといけない。生活するだけのお金があるという大前提で日常は進んでいくからだ。その上で、家庭がある人は家族のために時間を割かなければならない。・・・こうやって、毎日日々のお金を得るために働いて、家族のために時間を使って・・・という日常生活。ほとんどの人は、こういう生活が当たり前になっていて、時々嫌になりながらも「こういうのがささやかな幸せなんだ」とか思いつつ生きているのだろう。私は若いころから、そうしたつまらない日常生活を打破するにはどうしたらいいのだろう、と考えていたのだけど、結論は出ていない。一番いいのは「日常を楽しむ」ことなのだと、本読んだり芝居観たりすると必ず言われる。一般の人は、日常にささやかな楽しみを見出したりできるのかもしれない。たとえば今日の金環日食にしても、一般の人にとっては、いつもの日常生活にプラスアルファをもたらすイベント的なものだったのだろう。皆、そうやって日常を「楽しんで」いる。毎日仕事をしつつも、たまにそうやってガス抜きをして、生きることを楽しもうとしている。それが正しい姿なのかもしれない。私の創造性のない頭では、日常を打破するといったところで、どうすればいいのかわからない。「すべてをかなぐり捨てて旅に出る」とかかっこいいことを言ってみたところで、現実的にそうするには、たとえすごく物価の安い国に行ったとしても、長期滞在するにはかなりまとまった額のお金がいる。旅に出るにはお金が必要・・・当たり前のことだ。だから私の言っているのは夢物語なんだ。普通に働いていたら、東京で一人で暮らしていくのだけで精一杯で、とてもそんなお金なんて貯められない。仕事を掛け持ちして昼も夜も仕事して、芝居も観ず酒も飲まずに節約すれば貯まるかもしれないけど。・・・私の場合、「身近なささやかな幸せ」には目がいかない。日々の仕事や友人や恋人との語らいといった穏やかな日常よりも、もっと激しく刺戟に満ちたものを、常に求めているからだ。私が求めているものは非日常的瞬間の連続であって、日常的なものの繰り返しではないのだ。

土田英生作・演出『燕のいる駅』観劇。地味な会話劇でつまんなかった。全然話に入りこめず。今まで観た土田さんの芝居のなかで一番つまらなかった。役者も千葉雅子久ヶ沢徹など面白い人を揃えているのに魅力が出ていない。

新感線『シレンとラギ』ゲネ観劇。面白かった!後半の藤原竜也の重い思いを抱えた鬼気迫る演技がすごい。惹かれ合うシレンとラギ…でもその先に待っているものは…。暗殺者のシレン役の永作博美もよかった。そして古田新太は相変わらず悪役がよく似合う。迫力あり殺陣もすごくよかった。

バナナ学園純情乙女組『バナ学シェイクスピア翔べ翔べ翔べ!!!!!輪姦学校(仮仮仮)』観劇。いや〜面白かった!シェイクスピアで演劇をやろうというコンセプトだったようだが、まあいつものバナナ。水を思い切りぶちまけられ、役者やらいろんなものが飛んでくる混沌を楽しみました。日常生活にくすぶってる人におすすめ。かなりスカッとします。

metro『なまず』観劇。原発事故から50年後の東北を舞台にしたアングラ風の荒唐無稽なファンタジー、かと思いきや、コメディのなかにシリアスな要素も盛り込まれ、見応えがあった。いろんな要素のある脚本が面白い。月船さららの妖艶さと歌もよかった。

イキウメ『ミッション』観劇。つまんなかった…。イキウメの悪い面が出た。演出もよくない。照明が暗く、バックも真っ暗。なんとも地味。そんななか登場人物たちが、世界がどうたらとか使命がなんだという説明過多の台詞をしゃべる。退屈で、疲労が蓄積していたこともあり、かなりの部分寝てしまった。

鳥公園『すがれる』観劇。劇場に入って芝居が始まって数分間はワクワクしたけど、その後はつまんなかった。実験的なことをやろうとして空振りしている。まだスタイルを探っている段階なんだろう。でも観客に見せるんならもっとそういう演出にした必然性が必要。普通のストーリーがある芝居を観たい。

アマヤドリ『幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい』観劇。面白かった!シアタートラムで初演された『モンキー・チョップブルックナー』の改訂版。初演も見ているが、さらに面白くなってた!STスポットのなにもない空間で、見立てと想像力を駆使して豊かな空間を作り出してる。見事!

文学座5・6月アトリエの会『ナシャ・クラサ』観劇。壮絶な話だった。舞台はポーランド1920年代から2003年に至る長い年月、かつて小学校の同級生だった男女10人のそれぞれの人生を描く。戦争が起こり、ユダヤ人虐殺が始まり、かつての同級生たちが敵味方に分かれ殺し合う。善悪もなくなる。自分がそういう状況に置かれたらどうなるのかを考えずにはいられなかった。時代に振り回され、そのときにはなにが正しくてなにが間違っているのかわからない。皆、ひたすら自己の安全のために必死に行動している。こわい、と思った。

青山円劇カウンシル♯5『リリオム』観劇。脚本がさっぱり面白くなく、登場人物も魅力がない。最後のシーンに出てきた女の子は可愛かったが。なにより、リリオムがただのひどい男にしか思えず、なぜ女があんなにリリオムを愛するのかわからなかった。

新国立劇場サロメ』観劇。途中までは退屈だったが、後半、王の誓約をとりつけてサロメが狂ったように踊るシーンの後が面白かった。舞台上に広がっていく血。狂気と官能。多部未華子は、悪女であるサロメを、透明感ある瑞々しさでフレッシュに演じた。舞台装置も非常に面白かった。

5月の観劇本数は20本。
ベストワンはバナナ学園純情乙女組『バナ学シェイクスピア翔べ翔べ翔べ!!!!!輪姦学校(仮仮仮)』。