4月に観た舞台

蜷川幸雄演出『シンベリン』観劇。ものすごく面白かった!『シンベリン』はシェイクスピアのなかでもご都合主義的な展開が目立つ戯曲だが、蜷川によるスピード感溢れる演出で、納得させられる。ラストですべての謎が解明され、次々と解決する様は、爽快で至福感に溢れている。ポステュマス役の阿部寛は、ポステュマスの高貴さと、安易に騙されてしまう人間くささを情熱的に表現。イノジェンへの強い愛と、それゆえの狂気のような嫉妬と激情。シェイクスピア独特のリズムを自分のものにしていて、長台詞も聴き応えがあった。イノジェン役の大竹しのぶは相変わらずの素晴らしさ。愛することの苦しさ、それを乗り越えた後の愛の喜びを全身で表現。イノジェンは一途にポステュマスを信じて愛し抜く。芯の強い女性で、大竹に合っている。少年に変装したときの発声がよかった。ヤーキモー役の窪塚洋介は、シェイクスピアの独特の台詞のリズムを自分のリズムにしようと努力していた。ゆっくりとした台詞回しは、ヤーキモーという曲者をさらに怪しく印象づけ、効果的。ただまだこなれてないように感じた。クロートン役の勝村政信は、バカな王子役を三枚目キャラで演じ、客席の笑いを誘っていた。でも実はクロートンって可哀想な役。イノジェンのことを好いているのに本人にはひどく嫌われているし、あっさり殺されるし、最後もなんか忘れられてるし。そんな悲哀も感じさせた。ギデリアス役の浦井健治が素晴らしかった。『ヘンリー六世』での気弱で心優しいヘンリー役が強く印象に残っているが、今回のギデリアスはそれとは真逆の男臭く血の気の多い役。そんな役を上半身裸で生き生きと演じ、すごくエネルギッシュだった。素敵!

別冊「根本宗子」創刊号『貴方と私の演劇革命』観劇。4人の男性作家によるオムニバス短編集。四者四様の女性への妄想が炸裂。それに健気に応え一人奮闘する根本宗子は可愛くたくましい。けど一番面白かったのは根本さん脚本の『僕の彼女は、根本宗子。』だった。やはり男性目線の作品は苦手だな私は。政岡泰志『男 根本宗子』は、政岡さんらしいコミカルさで面白かった。けど動物電気での役者のいじり方に比べたら、まだまだ甘い。かなり遠慮がある。もっともっとコテンパにやっても、根本宗子なら耐えられたのでは。河西裕介『ボーイフレンド』は、河西さんらしい一筋縄ではいかない恋愛もの。国分寺大人倶楽部での『ガールフレンド』を観ていたので、早い段階でオチがわかってしまったが、見せ方が説明的にならないよう工夫されていて面白かった。田所仁『顔』は、ユニークな設定だけどオーソドックスなテーマ。台詞が面白くて、4本のなかで一番笑えた。女のいやらしい面もちゃんと描いていて、女性に過度の期待を抱いていないところがいい。でも最後は女が男への愛に目覚める・・・というありきたりな終わり方でちょっと残念。鎌田順也『寝る前に』は、一番よくわからない作品だった。ぼそぼそと独り言をつぶやき、変な顔をしながら、テレビを見てお茶漬けをすする女が唐突に歌い出し・・・。鎌田さんなりのこだわりがあったのだろうが、短編では伝わりづらい。結果インパクトのない作品になってしまった。根本宗子『僕の彼女は、根本宗子。』は、すごくリアルな恋愛もの。日によって恋人役が替わる。今日は河西裕介さんだったが、リアルだった。こういう恋人とのなにげない日常や喧嘩とかが、実は幸せなんだな・・・とか思った。だけどまだ若いな、青いな、とも思った。自分が年だからか。

虚構の旅団『夜の森』観劇。木野花作・演出。面白かった。精神病院に入院している患者たちが演劇療法のため『星の王子さま』を上演する・・・というストーリーで、個人的に興味深いシーンが多かった。特に嫉妬妄想にかられて夫を責める妻のシーンは、過去の自分を見ているようで苦しかった。

勅使川原三郎ダンス『オルガンー呼吸する物理学ー』鑑賞。動ではなく静のダンス。テーマはわかるし、オルガンの不協和音で空間を震わせたりなどいろいろ演出も工夫していたが、心に響くものがなく退屈だった。勅使川原三郎の、技巧的で激しいダンスをもっと観たいんだ私は。

毛皮族の軽演劇『演劇の耐えられない軽さだネッ』Y演目『ああ夜景』観劇。面白かった!柿丸さんが色気のある大人の女役で素敵だった。かっこつけてる大人の女が焦ったりジタバタしたり怒ったりする恥ずかしがったりする様が滑稽で愛らしくもあって。ストーリーもサスペンスフルで面白い。

柿喰う客『絶頂マクベス』観劇。最初と最後はめちゃくちゃかっこいい。しかし素舞台で照明も暗いので、途中だれる。結構大部分寝てしまったのであまり感想書けない。。。すみません。そういえばハムレットでも寝たっけ。この照明の暗さ、もっとなんとかしてほしい。山の手事情社じゃないんだから。

パラドックス定数『HIDE AND SEEK』観劇。江戸川乱歩夢野久作横溝正史が登場し、彼らの作品が劇中劇で描かれていく。構成は面白かったが劇中劇の部分が長い。あと物書きの苦悩というテーマに、今の私は全然興味を惹かれないらしい。退屈だった。

北川悦吏子作・永山耕三演出『彼女の言うことには。』観劇。面白かった。トレンディドラマ風の演出と音楽が小気味よく、華やかで浮き立つような心持に。飛行機で隣り合った男女に芽生える恋愛の話。ありきたりといえばそうかもしれないがそういうわかりやすい話が実は今の私にはツボかも。観てよかった。お目当ての矢田亜希子は初舞台とは思えぬほど堂々としていてとてもよかった。顔が小さくすごく可愛い。足がきれい。彼女が演じたちょっと変なCA役もよかった。後半の彼女の台詞は、矢田本人の状況とも重なり、胸が熱くなった。復帰して元気な姿を観られて本当によかった。矢田亜希子は、強い人だと思う。というか根性が座ってないと、女優なんて続けてられないよね。若いころのキラキラした感じもすごく好きだったけど、今の落ち着いてきて大人の女風の彼女もまたいい。新しい魅力もあるし、変わらない魅力もある。完璧な美貌、完璧な愛らしさだ。

岡崎藝術座『アンティゴネ/寝盗られ宗介』観劇。神里さんが描いた舞台画がすごい迫力で、白壁に映える。素敵な空間。静と動を繰り返す舞台は不思議な浮遊感があり、なんかうっとりする感じ。『寝盗られ宗介』のパートのスピード感と動き回る役者の自由さがすごくいい。最後の照明もいい。

毛皮族の軽演劇『演劇の耐えられない軽さだネッ』X演目『オシッコ猶予中』観劇。マリーちゃんと羽鳥さんと高野さんがオシッコ止まらなくなっちゃってもータイヘン!荒唐無稽なストーリーと、時間軸を巻き戻すような構成(マームとジプシー?)が面白かった。

NODA・MAP番外公演『THE BEE』ゲネプロ観劇。初演と演出や美術は同じだが、出演者が一部違うので、やや印象が違う。宮沢りえ妖艶でいい。池田成志インパクトのある演技。野田秀樹近藤良平は初演に引き続き緊迫感ある演技。大きな紙を使った様々な演出方法に惹きこまれる。すごいな。

毛皮族の軽演劇『演劇の耐えられない軽さだネッ』Z演目『女と報酬』観劇。毛皮族メンバー総出演で、歌あり踊りありでハチャメチャなストーリー。いかにも毛皮族らしい芝居ですごく面白かった!特に町田マリー最高!バッチリメイクしてボディコンミニスカでパンチラして歌う。可愛い&かっこいい!

ナイロン100℃『百年の秘密』観劇。ベイカー家の人々とその周辺の人々。年月が経て人々が歳をとり死んでいき、新しい命が生まれ変わっていく様を、庭の大樹が見守っている。時制が数十年単位で行ったり来たりする構成の組み立て方が巧み。最後のシーンに胸打たれる。あれを最後に持ってくる構成の妙にうーんとうなりました。すごい。

毛皮族の軽演劇『演劇の耐えられない軽さだネッ』W演目『Wの喜劇』観劇。残念ながら仕事の都合で後半しか観れなかった。でも面白かった!江本さんの敏子役はやはりいい。金子さんも柿丸さんもいい味を出していた。途中の、これまでのシリーズのワンシーンをやるとこがよかった。ずっと観てるからね。

サンプル『自慢の息子』観劇。初演よりよかった!すごく面白かった。母親から逃れられずに自らの王国を作ると称して引きこもっている男。兄に異常な執着を寄せる女。二人の孤独な心が、一瞬だけいびつに交わるシーンが官能的。古舘寛治さんは素敵すぎる。野津あおいさんもセクシーでいい。

チェルフィッチュ『現在地』観劇。岡田さんが意識してフィクション作りに挑戦したということだが、いつものチェルフィッチュの雰囲気だった。動きがほとんどなく、役者たちは淡々と感情をこめずにセリフをしゃべる。朗読劇のような趣き。観客が「物語」に入り込むのを阻止するような演出。破滅するという噂のある村に住む女性たち。彼女たちが抱える不安や様々な要素は、震災後の日本の状況そのもので、フィクションとはいえドキュメンタリーっぽい。示唆に富んだセリフを聞いているだけで面白かったが、動きがないため途中かなりの眠気が。


4月の観劇本数は16本。
ベストワンは蜷川幸雄演出『シンベリン』。