3月に観た舞台

モダンスイマーズ『ロマンサー』観劇。素晴らしく面白かった!蓬莱さんの新境地。骨太なストーリーと濃密な人間関係を描いていて、最後までグイグイ見せる。ラストシーンが素晴らしすぎる。古山憲太郎さんの台詞に震えた。それにしても、『まほろば』観たときにも思ったが、蓬莱さんは男性なのになぜこんなに「女性」を描けるのだろう。今回も、女性の強さに心打たれた。石田えりの存在感がすごい。

柴幸男作・演出『テトラポット』観劇。疲れた。ラストうるさすぎて不快。メッセージがくどすぎるし、ボレロをあんなにうるさく使ってほしくなかった。早く終わってほしかった。冒頭の少年王者舘演出にも面食らった。「時間」をめぐる物語で、繰り返しとか繋ぎ方とかの時間の描き方が巧み。

パーマ屋スミレ』観劇。本当にいい芝居だった。ラストシーンが素晴らしい。原発事故を思い起こさせるシリアスで重い内容なのに、笑いやユーモアもふんだんに盛り込まれているので暗さは感じなかった。登場人物がどの人も必死で生きることにあがいていて、その熱さに心打たれる。

ブルドッキングヘッドロック『スケベの話』バットとボール編観劇。すごく面白かった!高校球児たちの、野球と性欲で悶々する感じが生々しくてよかった。すごく笑えるしエロい。いや〜、男の子もタイヘンだ!(笑)。役者はどの人もよかった。球児一人一人のキャラが立っている。高校生たちのなかで、ただ一人32歳の女性を演じた佐藤みゆきのしっかりとした存在感が素敵。天然でエロくて可愛い。でもやっぱり大人の女性。

ブルドッキングヘッドロック『スケベの話』セイなる夜編観劇。バットとボール編では男の子の性への葛藤を生々しく描いた喜安さんだが、女のそれを描くのは苦手なようだ。設定がファンタジー的でリアリティがなく、話も面白くない。登場人物一人一人の過去の恋愛話もありがち。

ひょっとこ乱舞『うれしい悲鳴』観劇。いろいろなものが詰まった大作。今までのようにスピード感で見せるというよりは、情感を大切にした芝居という感じがした。物語がよくできている。ドラマ性も十分あって見応えがあった。広田さんの書く脚本は、本当に面白い。

co.山田うん『季節のない街』観劇。素晴らしかった!喜び、悲しみ、楽しさ、すべての感情があった。不自由に動き回る身体。軽快に奔放に楽しく跳ねるように動く身体。横たわって息を吐く身体。奇声を発し泣き歌う身体。身体はなんて自由で、そしてなんて不自由なんだろう。ダンサーたちの全身から、身体を動かすことの楽しさが伝わってきた。ダンスってなんて豊かなんだろう。言葉がないのに、こんなにも様々な感情が伝わってくるなんて…!終始圧倒されながら観ていた。カーテンコールでは手が痛くなるほど拍手した。ブラボー!

野村萬斎演出『サド侯爵夫人』観劇。素晴らしかった!ルネ役の蒼井優がすごすぎる。聖も俗も超越したルネという難役を、まだ若い蒼井がひたむきに演じる。特に二幕の白石加代子演じる母との対決シーンは凄まじい。蒼井優が出ている舞台はたぶん全部観てるけど、毎回期待を裏切らない。すごい女優だ。シンプルな演出・美術が戯曲の豊かさ、官能、深さを引き出していた。控え目だけど質が高い。照明、音楽も効果的。そして衣装が華やかで凝っていて目に楽しい。とてもよかった。蒼井優以外の役者も全員よかった。麻実れいは蠱惑的で毒々しく、クセのある役を魅力的に上品に演じた。白石加代子は相変わらずの怪物じみた迫力を醸し出していた。

ENBUフェスタ2012福原充則クラス卒業公演『青春残酷短篇集』観劇。4つの話の短篇集。過去にピチチや親族代表などで上演された作品だったようだが、私はどれも未見だった。どれも福原さんらしく面白かった。役者もよかった。特に一本目の『火の鳥フリーター篇』はかなりツボ。バイトをしながら漫画家を目指しているが、漫画はなかなか認めてもらえないのにバイトの時給はどんどん上がっていく…。二本目と四本目に登場するカップルの廃れ具合が妙にリアルで、ああはなりたくないな…とか思った。

FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』観劇。前半はいつもより男の子がクローズアップされ、中二男子の妄想っぽい話で、うーんと思ったのだが、途中から弾けて面白くなった。だが歌が続くシーンや最後のシーンが長く感じられた。ああいう作風で2時間やられるとちょっとしんどい。

DULL-COLORED POP『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』観劇。面白かった。「母親」を描いた話。専業主婦の母親は、夫や子供たちに「愛している、心配している」と言いながら、無意識に相手を束縛し追い詰め自分の思い通りにさせようとする。その姿はうざったく、モンスター的だ。子供たちは成長すると家を出て行く。夫は仕事で疲れはて、定年退職したいと言っているのに妻にはその思いが伝わらない。会社を辞めた夫が「頼む、一本だけだから」とタバコを懇願するのに妻が大反対するシーンはあまりにも夫が気の毒。夫が死に、母親の話し相手は猫だけ。39年もただ家族のためだけに尽くしてきた彼女の淋しさが伝わってくる。夫の遺言状が息子によって読み上げられる。劇作家の息子は美しいフィクションを母親に贈った。息子の母親への愛を感じた。

ユニークポイント『アイ アム アン エイリアン』観劇。患者Aと患者Bのどちらに移植するべきかを決定する審議会。その審議委員は市民から無作為に選ばれた7人。議論が繰り返されなかなか結論が出ない。本来なら開示されなかったドナーの情報が開示される。密度の高い会話劇。

燐光群『地球は沈没した』観劇。震災をテーマにした作品。新しい試みで斬新な演出だったが、つまらなかった。ストーリーらしいものもなく、なにを軸にして観ればいいのかわからない。テーマも強く伝わってこない。外側だけやたらと凝ってるけど中身は空っぽの箱のような舞台。

THE SHAMPOO HAT『一丁目ぞめき』観劇。鳥肌が立った。心が震えた。希望の見出しづらい世の中を、諦念と虚無感を抱えながらも一日一日をなんとか埋めていこうとする人々。登場人物全員がそれぞれの事情を抱えていてそれぞれに大変で、それでも彼らなりに「生活」していく様を描いている。チラシには「うんことちんことまんこの話をしようじゃないか」とあり、台詞もそういうのが多い。でも実際、うんことちんことまんこの話、というのが、人間の本質的な部分かもしれなくて。船橋が舞台で、そこに住む人々のことを描いた芝居なのだが、それがすごくリアリティがあるのだ。化粧品の販売をしているがなかなか儲からず困っている男。その男の妻は離婚したがっている。小さな電器屋を営む男は友人の妻と浮気をしている。・・・そんな、各人の事情が、少しずつ少しずつ台詞で明らかにされていき、ラストで伏線もすべて回収される。無駄な台詞がひとつもないことに、終わった後で気づいた。完璧な脚本なのだ。役者がどの人もうまくて、もう表情のちょっとした変化だけですべてを表していて、本当にすごいと思った。私はA列に座っていたので、役者の表情がよく見えた。食い入るように観た。2時間、舞台の空気に吸い込まれ、終わった後もしばらく動けなかった。船橋が舞台の話だが、現代の日本というものをリアルに描いている。「・・・揺れてる?」という台詞に、震災後の日本の不安定さ、希望の見出せなさを思う。今の日本は本当に希望が見出しずらくて、生きていること自体が苦痛な人も多いかもしれない。この芝居に登場する人々も、生きていることになんの希望も目的もなく、ただ日々を「生活」しているだけなのだ。だけど、死なずに「生活」し続けるだけのことが、どれだけ大変か。平凡な生活を維持することが、どれだけ忍耐を必要とすることか。配偶者に対する不満を我慢し、得られる収入の低さを我慢する。「生活」していくために。そんな、ごくごく平凡な人たちが、それでもなんとかかんとか「生活」を続けようとする。この芝居になにか希望があるとしたら、この部分だと思う。人は生まれてきたら生きるのだ。うんことちんことまんこのために。人生の目的?そんなものなくていい。郊外における生活者のことをリアルに描写した芝居。それだけでなく日本の現状をも描いている。大変優れた脚本だと思う。赤堀さんの書く、すごくリアルでダメで、でも詩的な台詞が私は好きで好きでたまらない。役者・赤堀雅秋も大変素晴らしい。もう赤堀さん演じるダメ男から目が離せなかった。ああなんでそんな、捨てられた子犬みたいなつぶらな目をするの!?そしてなんで歌声が意外に太くていい声で素敵なの!?ダメ男なのに目が離せないのはなぜ!?

BASEプロデュース朗読公演第2弾『往復書簡 十五年後の補習』観劇。湊かなえ原作。面白かった。男女二人が手紙のやりとりをしていく過程で、十五年前のある事件の話になる。女はなぜか事件当時の記憶をなくしている。ラストが二転三転し、隠された真実が明らかになるのが面白かった。

長塚圭史演出『ガラスの動物園』観劇。トム役の瑛太がよかった。灰色の舞台美術とダンサーたちが、登場人物の心情を現している。ラストがあっさりしていてあまり余韻がないように思えたのが残念。

東京デスロック『再/生』観劇。去年の7月に横浜で上演された後全国各地で上演された作品。本拠地である富士見公演では、彼らが様々な土地と出会い、その場を去り、季節を通り過ぎ、時間を積み重ねた様が描かれる。その厚みと深さにハッとさせられる。と同時に、もはや7月にSTでこの作品を観たときとは状況が変わっていることに気づかされる。震災から一年経った。今の東京は震災前とはもう違う世界になってしまった。誰一人もとの世界へは戻れない。この作品のラストは、それでも今生きていること、生きている人を肯定している。

MODE『満ちる』観劇。竹内銃一郎の新作。面白かった。かつて「鬼才」と呼ばれた老監督が12年ぶりにメガホンをとったが、今ではトラブルメーカーで、現場は混乱している。娘の満ちるが脚本家として呼ばれるが、彼女は父を嫌悪しており・・・。舞台が映画のシーンでもあるという演出が面白かった。

黒田育世『うみの音が見える日』鑑賞。壮絶だった。言葉がない。明るい照明の下、白く細い四肢が激しく痙攣しのたうち回り、みるみる痣だらけになる。上気し息を上げながら静かに激しく踊り続けるシーンは、黒田がさながら神の声を伝える巫女のようにも見えた。しかし後半を観て、黒田は人なのだ、と強く思った。人の、生きていることの苦しみを、私たちに代わって黒田は力の限り踊ってくれているのだ。生きることは苦しい。黒田の苦しそうに踊る姿はそう言っているかのようだ。それならばなぜ生きるのか。その答えは前半にある。人は生まれてきたから生きる。古来からそれは変わらない。個人の人生の目的などなくていい。神が人をつくり、この日本という地をつくり、人はここに生まれてくる。生まれた以上は生きなければならない。生きるのは苦しいことだ。だが寿命を全うするのは使命なのだ。かなり個人的な感想になってしまったが、ダンスは芝居以上に受け取るものは人それぞれということで。とにもかくにも黒田育世の踊りの迫力あること。前半の静かな踊りを経ての後半は、ほんとに鬼気迫るものがあった。。。役者もそうだけど、ダンサーってほんとに捨て身にならないとできないよな・・・と思う。ポーズとか動きとかひとつひとつに対して、「恥ずかしい」とか考えているヒマはないだろう。黒田育世の踊りを間近で観てそう思った。彼女の踊りをこんなに近くで観れる機会もそうないだろう。壮絶な体験だった。黒田育世は、生きることの切実さと痛さ、苦しさを、生々しくこちらに伝えてくれるダンサーだ。だから私の心を揺さぶる。生きることは素晴らしいことなんかじゃない。苦しいことだ。苦しいなかでそれでも生きていくことの尊さ。観終わった後、そういうことを考えさせてくれる。

大人計画『ウェルカム・ニッポン』観劇。劇団員総出演の新作。とにかく熟練の役者たちが面白すぎて何度も爆笑してしまった。しかし、次第に笑いの内に潜む毒がじわじわと浸透してきて、気が付いたらもはや笑わないではやってられないほどの重く深いずっしりとしたものを背負わされていた。。。9・11後のアメリカと、3・11後の日本。重く痛いテーマを、松尾スズキは笑いのなかに織り込ませる。なんという巧みさだろうか。。。終わった後は、興奮と虚脱感がないまぜに。3時間、ずっしりびっしり。相変わらず際どいエロシーンが多い。一番最初に大人計画を観たとき、ちょっと衝撃を受けたのを思い出す。なんかポツドールとかのエロシーンにはないような、大人のエロみたいな。ああ大人の男の人が書いた本だな・・・とか思う。大人の男の人ってエロいよね。。。途中、チェルフィッチュやままごとの芝居をパロって批判する、みたいなシーンがあり、かなりウケたのだけど、あれはもちろん本当に批判してるわけじゃなく、彼らの才能を認めた上で「オレはこっちの路線で行くぜ!」と啖呵を切ってるんだよな。松尾さんかっこいい。それにしても、今日の大人計画も、先週観たシャンプーハットもそうだったけど、「震災後の日常」というものを描いている芝居が増えた気がする。表現者も、「震災後の日本」をどう捉えてどう描くのか、一年経って、考えるところがいろいろあるだろう。そういえば、今日の大人計画チェルフィッチュの再現シーンで、笑ってる人が少なかったのだけど、やっぱりチェルフィッチュ大人計画の客層ってかぶらないのかね。。。大人計画とか新感線とかって、もうメジャーになっていて、小劇場をよく観る人は逆にあまり観ない舞台になっているのか?小劇場のなかにもブームみたいなものがあって、今のブームはマームとジプシーとかなのだろう。一昔前は大人計画がブームで、皆下北沢へ行っていたのだ。でも大人計画は今でも下北沢で芝居やってる。下らないことを、いい大人が本気で全力でやってる。松尾さんも役者もすごい。大人計画はまだ最前線だ。

カトリ企画UR『文化系体育会』観劇。すごく面白かった!杉原さんの演出がめちゃくちゃかっこよくてスピード感があっていい。俳優が5人とも素晴らしい。体育館を模した舞台上を走り回る姿が文句なしにかっこいい。一人が複数の役をやっていて、瞬時に役が切り替わる演出とか、すごかった。女の子に変装する役をやった大橋一輝は、可愛らしさとかっこよさを兼ね備えていて、見入ってしまった。線の細い感じがすごく素敵。それでいて今時の男の子っぽさもあって。さいたまネクストシアター所属で『ハムレット』にも出ていた。今後も要注目の俳優だ。ロロの看板俳優でもある板橋駿谷は、相変わらずの存在感。女の子役が面白かった。金丸慎太郎は濃い顔立ちに髭、くしゃくしゃの髪型という今時のイケメンだが、この空気読めない天然な感じはなんなんだろう。独特の愛嬌があって憎めない感じだよね。素敵。イキウメのなかでも童貞キャラで異彩を放っている大窪人衛が、さらに濃い役で出ていて、すごくよかった。顔も雰囲気も佇まいも独特の俳優。まだ23歳。金丸慎太郎とのキャッチボールのシーンがすごくいい。心に傷を抱える二人が無言で一緒にいる様が胸を打つ。岡野康弘さんは、私がすごく好きな俳優さん。黒縁メガネをかけた知的な顔立ちがものすごく好き。今回はそんな岡野さんがすごいスピードでたくさんしゃべり、走り回り、なんとソロダンスまで!岡野さんファンにとっては嬉しすぎる舞台でした。岡野さんのダンス超素敵!男優5人がそれぞれ魅力があり、皆が全力でやっているのがすごく伝わってきて、爽快だった。アフタートークで杉原さんの話を聞いたら、もとの脚本にない部分を稽古でどんどん加えていったそうだ。杉原さんの壊し方はセンスがよく、エネルギッシュで、ワクワクする。

中崎町ミュージアムスクエア『神様それではひどいなり』観劇。山崎彬の脚本は面白いのだが、演出がなんというかダサくて、観ていてむず痒くなった。女優が台詞を何度も噛んでいたのも気になった。全体的にはいまひとつの出来。


3月の観劇本数は22本。
ベストワンはTHE SHAMPOO HAT『一丁目ぞめき』。