2月に観た舞台

森田剛主演、宮本亜門演出『金閣寺』観劇。すごすぎて言葉が出てこない。あり得ないぐらいよかった!舞台作品として素晴らしい。一年前にKAATで観たときよりもさらにすごくなっていた。KAATのときはまだ手探り感があったが、ニューヨーク公演を経て完全に振り切れた。前半の終わり方がめちゃくちゃかっこよくて痺れる。主人公と対峙する金閣寺役の山川冬樹ホーメイが凄まじい。そして、森田剛は化物!恐るべき才能。溝口の心情を見事に表現していて、目が離せない。森田剛は、最初から異様な佇まい。これは、憑依だ。溝口という吃音の男の、苦悩、自負、異様なまでの金閣寺という美への執着、狂気などを体現。森田を通して見る溝口は、恐ろしく繊細で感受性が鋭く、純粋すぎるほど純粋だ。特に終盤の森田は凄まじく、鬼気迫るものがある。ほかの俳優たちもみなそれぞれの演技に確信を持って演じているように思えた。『金閣寺』の最後の、森田剛の「生きよう」という台詞と、控えめな笑顔の表情がすごくよかった。人間の尊厳を感じさせる演技がすごくいい。観ていてこの一年の自分を思い出し、「生きよう」と励まされた感じがした。希望を感じさせるラストで、涙が止まらなかった。なんてものを見せてくれるんだ!

ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』観劇。面白かった!笑えるシーンが多いのに、実はかなり切なく哀しい話だと思う。陽子役の安藤聖が素晴らしい。明るく可愛い女子高生に見える陽子の抱えている闇をよく表現していた。彼女が「死」について語る(あるいは歌う)シーンがとてもよかった。安藤聖は、一言で言うと「気持ちのいい人」だと思う。顔ももちろんのこと、なんの混じりけのない100%の笑顔があまりにもまぶしすぎる。笑顔に一ミリも媚が入っていないのがすごい。女性として女優としてというより、人間的な魅力。まっすぐで凛として、優しい人だと思う。最初にポツドール安藤聖を見たときには、こういう女優になるとは思ってもいなかった。あの頃は、風俗嬢の役だとか、ヤンキーっぽい役だとか、ヤリマンみたいな役が多かった記憶がある。でも安藤聖は「裏のある(頭のいい)清純派」みたいな今回のような役がはまっている。ほかの役者もみんなよかった。特に岩本幸子演じる女教師と、富岡晃一郎演じるサラリーマンの二人のシーンは、あまりのおかしさに爆笑してしまったよ!岩本さんも富岡さんもおかしすぎ!そして富岡さんは、お墓に座ってパンをもそもそと食べるとぼけ方とか、変に似合うから!もう!『墓場、女子高生』は、ENBUゼミでの卒業公演でやったのが最初だった。それも観ている。そのときも面白かったけど、今回のはもっともっと面白い。役者が全員素晴らしいし、演出、美術、照明もよかった。こういう青春っぽいのは、福原さんの作品のなかではかなり特殊な部類に入るのでは。もともとENBUゼミでの卒業公演のために書かれた芝居だから、青春っぽい内容になっているわけだな。でもそれがこうやって豪華キャストでまた上演されるって、なんか芝居の世界っていいなあ。自由だな、なんというか。しかもこれは「ベッド&メイキングス」の旗揚げ公演。次回も楽しみ!『墓場、女子高生』観て、自分の高校時代を思い出したりした。私も陽子と同じ「文系」だったから、ああでもないこうでもないといろいろ考えていた記憶が。あげくは、「20歳になる前に自殺しよう」とか考えていたっけな・・・。まあ、実行しなかったから今こうしているわけですが。。。

カトリ企画UR『チェーホフのスペック』観劇。面白かった。『熊』と『アントンのアングル』の二本立て。役者が素晴らしい。映像と音楽もかっこいい。『熊』は大川さんと熊川さんがコミカルで迫力がある。酒巻さんはチャーミング。『櫻の園』を下敷きにした『アントン〜』は夏目慎也が怪演。

ロロ『LOVE02』観劇。テーマがはっきりしていて演出もよく、見やすかった。恋愛を描いているがかなりファンタジー的なので入り込むことはできなかったが、ラストシーンとかいろいろ印象に残るシーンが多かった。

渡辺美帆子企画展『点にまつわるあらゆる線』観劇。最初はなにもわからず目の前にいる彼女や彼女にまつわる様々なものを見ていた。ずっと見続けると彼女の輪郭みたいなものがおぼろげながらわかってくる。でもわかるわからないというよりも、その空間に浸っているのが楽しかった。

地点『トカトントンと』観劇。とんでもなく面白かった!地点ほど知的で尖っていてかっこよくて刺激的な劇団がほかにあるだろうか。テキストの構成も役者も素晴らしかったが、なにより「音」と「光」に五感を揺すぶられる感覚がたまらない!最前列で観たのだが、舞台の見え方が非常に面白くて、どうなってるのかと終演後舞台をのぞいたら…はぁ、痺れました。それにしても、太宰の言葉がこんなにかっこよく切実に聞こえるとは。意外に太宰は演劇に合うのかも?小説を読んでいても、自分に向かって訴えかけられてる感じがするけど、舞台でもそうだった。小道具もいちいちかっこいい。風や波のような装置もいい。舞台をずっと見て感じていたくなった。地点、次は『駆け込み訴え』をやるそうです。これもすごく好きな小説。見逃せない!

『龍を撫でた男』観劇。面白かった!昭和27年に初演されたものをKERAが現代に蘇らせた。脚本がとにかくよくて、会話がいちいち面白い。最後みんなが狂っていく様とか、本当によくできている。役者もよかったし、KERAの演出もよかった。映像もかっこいい。2時間半あったが長さを感じなかった。あの時代だったからか、「きちがい」という言葉が頻出する。互いが互いを「きちがい」と言いあう。最後はどっちがおかしいのかわからなくなる。なんだか登場人物全員がいっちゃった人みたいな感じで、その会話がスリリングで面白い。こういう戯曲を今やってくれるのって素敵なことだ。個人的に、精神病についていろいろ考えさせられた。精神病でも生きていかなきゃいけない。働くことができなかったとしても、どうやって食べていくかの算段は自分でつけなきゃいけない。赤堀雅秋がそういう役を体現していて、とてもよかった。広岡由里子演じた妻もまたそうだ。あと、やっぱり恋愛感情というものが、一番精神を刺激するんだな・・・と思った。躁にもなるし鬱にもなる。精神病持ちにとっては、はっきりいって恋愛は天敵だ。かといってそういうのがまったくない人生は退屈だ。観劇もまたそうかもしれない。薬にもなれば毒にもなる。刺激が強すぎる。『龍を撫でた男』を観ていて思ったのは、「家庭」ってなんだ?ということ。舞台では家庭の大事さを主人公の精神科医が訥々と語るが、その実彼は妻を裏切っているし、妻のことを病人扱いしている。妻もその弟も、彼から解放されたがっている・・・「家庭」ってなんだ?そこは本当に幸福なのか?ひとつ言えるのは、「家庭」について、「バカバカしい、面倒なだけ」などと批判する気ももちろんないし、「素晴らしい、ぜひ家庭を持つべきだ」とも思わない。どっちでもない・・・というかどっちでもいいよね?家庭を持っても持たなくてもどっちでもいい。自分らしく在れればそれでいい。

文学座『三人姉妹』観劇。退屈極まりないオールドスタイルの芝居。新しい発見もなにもない。なぜ今これをやるのか意味がわからない。役者ではイリーナ役の荘田由紀だけが唯一よかった。現代口語をベースにした新訳で30年ぶりに文学座の舞台によみがえる、というチラシのコピーから、もっと現代的な舞台を想像していたのだけど、全然そうじゃなかった。せっかくの新訳なのに演出が古い。役者の演技も古い。それに『三人姉妹』のもっともドラマティックな要素である、マーシャとヴェルシーニンの恋愛が、ちっともドキドキしない。だって二人とも色気が全然なくて、魅力的じゃないんだもん。ていうかマーシャ役の女優は、オリガ役の女優より明らかに年上なんだけど・・・配役ミスじゃ?『三人姉妹』は、TPTでやったやつを観たことがあって、そのときはマーシャを濱崎茜さんが、ヴェルシーニンを笠原浩夫さんがやっていて、それがすごくよかったのだ。やっぱりあの役は、色っぽい人がやらなきゃだめだ。・・・まあ、イリーナを演じた荘田由紀を観れただけでもよかったとしよう・・・そう思わなければやってられない。荘田由紀は、『女の一生』を観てすっかりファンになったのです。今回も彼女が出演しているから観るのを決めたのでした。昨日観た『龍を撫でた男』も、古い戯曲だけれど、KERAの演出が現代的でセンスがよく、古い戯曲の良さを生かした上で、現代的に見せることに成功していた。演出家によって古い作品が現代的によみがえったり、古いものが古くさいまま現れたり・・・様々だね。やっぱり古い戯曲をやるのって難しいんだね。普通にやったら古臭くなるだけ。いかにそこに現代のエッセンスをプラスできるか、センスよく見せられるか。古いのはいいのだけど、それをセンスよく見せることが重要。たぶん今回の作品も、「人間の変わらなさ」「時間」というものを意識した公演だったと思う。それが伝わる人には伝わっただろうと思うが、私には伝わらなかった・・・というか、自分がオールドスタイルの芝居が苦手であることに、改めて気付いた。

国分寺大人倶楽部『ハローワーク』観劇。初演も面白かったけど、再演も相当面白い。脚本も演出もかなりストレート。愛や青春や仕事というものについてど直球に描いていて、真摯な想いが伝わってくる。登場人物たちの何気ない会話が面白い。そこから見えてくる人間関係やそれぞれの想いも興味深い。役者は全員よかったが、なかでも西園泰博さんがあまりにも役にはまっていて、すごかった。初見だったら当て書きかと思っただろう。ポツドール時代から注目しているが、やはりすごい役者だと思った。西園さん演じる小林の不器用な生き様は、痛いけど惹きつけられる。『ハローワーク』には、家族を持ったことで夢を諦めて就職した男と、恋人から結婚を迫られても夢を諦めない男が登場する。そのどちらをも肯定しているように感じた。夢を追うこともいいことだし、就職することもいいこと。隣りに愛する人がいさえすればそれが幸せ。そんなシンプルなことを描いている。ハロー、ワーク。「働くことの意義」について、真剣に考えた時期があった。収入や生きがいのためだけじゃなく、「働く」という時間が少なくとも自分には必要なんだ、と思った。どんな仕事でも尊い。工場でダラダラやっていても仕事は仕事だ。一日の一定時間働く。それによって生活のリズムも作れる。いわゆる「労働」、それも真摯な人間の活動だと思う。クリエイティブな仕事とか、やりがいのある仕事じゃないと働く意味がない、と思う人も多いかもしれない。私もかつてはそう思っていた。でも違う。「働く」ということは、そういうこととはまったく違うんだ。ただただ「働く」ことで見えてくるのだ。今回は再演で、初演とキャストが違うから、雰囲気も微妙に違う。大きく変わったのは二ノ宮と片山。片山は初演では岩瀬亮さんが演じた。初演の印象では、まだ若くて夢を捨てきれない男、という感じだったが、再演の江ばら大介さんは、もっと成熟した「おっさん」として演じた。二ノ宮役は初演では作・演出の河西裕介さんが演じた。河西さんがあの役をやったからこそぐっとくるものがあったのだと思う。だけど、活動休止を謳ったこの公演で河西さんがこの役をやったら、それこそ痛すぎるだろうから、これでよかったのだと思う。おまけ演劇『ジャンボ尾崎豊』も堪能。へなちょこミュージカルなんだけど、国分寺の温かさが滲み出てて、ほんとにいい劇団だな〜と思った。「本編の余韻を損なうから、余韻を楽しみたい人は観ないほうがいい」と当日パンフには書かれているが、やはり観たら面白い。『ジャンボ尾崎豊』は、西園さんがいきなり「ジャンボジャンボ俺はジャンボだ」と歌いだして、かなりウケた。その後の後藤剛範さんと大竹沙絵子さんの登場にも大ウケ。というか、後藤さん、本編よりこっちのほうが出番多いんじゃ?ある意味ちょっともったいない使い方じゃない?それにしても、国分寺大人倶楽部は、なんかこう、ほかにはない独特の温かさがある。「国分寺」という地域ゆえのものなのか?こんな温かくて素敵な劇団が活動休止してしまうのは残念だけど、河西裕介さんは今後脚本提供もするようだし、役者の方たちはほかの劇団に出演するようだ。今後の活躍を見守っていきたい。

庭劇団ペニノ『誰も知らない貴方の部屋』観劇。4年に一度のはこぶね新作公演。うあぁ。素敵すぎる。スゴすぎる。おぞましくも美しい壮絶な世界が、目の前で繰り広げられていた・・・。最前列で観劇したから細部までよく見えた。舞台美術や道具がすごくて、それを見ているだけで楽しめる・・・。タニノクロウは「演劇」というジャンルを軽々と超えた・・・。いや、ジャンルといえばまぎれもなく「演劇」なのだけど、演劇の定石なんてそこには一ミリもなくて。ただただ目の前で起こることを見ている、それだけですごく満たされる。その空間にいること自体が奇跡。終演後、タニノさんに「なんかスゴかったです」としか言えなかった自分の語彙のなさを恥じたが、ほんとにそれしか言えなかった。ただただスゴかったし、圧倒された。演出も美術も役者もすべてがスゴい。美術は、「これどうやって作られたんだ?」と思ってしまうほど凝っている・・こだわりまくっている。

サンプル『女王の器』観劇。面白かった。いろいろなエピソードがバラバラに提示されるが、とにかくそれらを観ているのが無性に面白い。「女王」をキーワードとしたエピソードひとつひとつが面白く、それらが全体のストーリーにどう絡んでいるのかということは全く気にならない。そもそも全体のストーリーがあるのかどうかすらどうでもいい。その「世界」がしっかりそこには存在しており、私はそれに浸れた。だから、暗転したときには、舞台がもう終わってしまうというのが本当に残念だった。もっと観ていたかったのだ。役者は相変わらずどの人もよかった。古屋さんの無駄にセクシーで滑稽な感じとか最高。古屋さんの恋人役をやっていた女優さんは初めて見たが、すごくよかった。彼女のとあるシーンを見て、なんだか無性に男の人を踏みつけたい衝動に駈られた。松井さんはやはり天才的な変態。

珍しいキノコ舞踏団『ホントの時間』観劇。面白かったー。思わずクスリと笑ってしまうような、ユーモラスでリズミカルなダンス。選曲も冴えてる。観客を飽きさせない、凝った構成。ラストの派手な演出もかっこいい!思わずお客さんも踊り出した!観客と一体になった素敵な空間。

蜷川幸雄演出『ハムレット』観劇。長くて途中寝てしまったけど面白かった。ハムレット役の役者がすごくよかった。最初と最後の演出がいい。装置もいい。こまどり姉妹は迫力。

スタジオライフ『OZ』Oチーム観劇。面白かったー!ラストは大感動。機械人間1019を演じた曽世海児さんがすごくよかった。機械なのに人間の感情が沸く様に感動。松本慎也くんの男役は久々に見たけど超かっこいい!機械人間1024を演じた青木隆敏さんも複雑な感情を表現していた。

2月の観劇本数は14本。
ベストワンは『金閣寺』。