財団、江本純子 vol.5『日本全国奇形鍋』

財団、江本純子 vol.5『日本全国奇形鍋』

作・演出◇江本純子 出演◇亜矢乃 石澤彩美 内山樹里 遠藤隆太 大石綾子 小野正彦 川上ルイベ 北川義彦 熊谷美香 小沼早苗 佐藤祐香 澁谷佳世 高山のえみ 長菜々美 中村倫子 橋本美和 藤井咲有里 藤崎ルキノ 星奈美 本間玲音 宮本敏和 山口明希子 山並洋貴 吉川麻美 吉武遥
9/1〜4◎SPACE雑遊

<作品概要>(チラシ、公式サイトより)
財団、江本純子(旧:劇団、江本純子)の2011年新作です。
福岡からスタートしたご当地演劇『奇形鍋』の東京版、
その名も『日本全国奇形鍋』!!
東京に集ってしまった精神的奇形の大人達が、
この貧乏都市の片隅で生きていくこと。
東京で生きててよかった?
──

以下、ネタばれあり。



しょっぱなから、江本さんがかましてくれます。
前説で登場した江本さん(というかジュンリー)。「江本純子です。歌います」と言って、いきなり歌い始める。
一瞬にして観客のココロを鷲掴みにするジュンリーは、やはりかっこいい。遅れてきたお客さんに声をかけたりなど、サービス精神も旺盛。
これから始まる芝居に対するワクワク感が募る。
芝居は、とある工場の一日を描いたもの。
もともと工場で働いている人々と、派遣でやってきた人々。ベルが鳴るごとに休憩タイムが入り、ある人はタバコを吸いに外に出たり、ある人は黙々と読書をしていたり。またベルが鳴って、作業が始まる。皆、お昼の時間を心待ちにしている。そのランチタイムは、派遣と社員とでははっきり分かれ、社員たちは固まってワイワイ食べているのに、派遣の人たちは地べたに紙を敷いて座って食べている。しかも電子レンジを使っていいのかどうかもわからない。派遣と社員との格差が明らかになる。
場面設定はあってもはっきりとしたストーリーはない。誰が主役ということもない。ただひたすら工場で働く雑多な人々の雑多な日常が描かれる。とてもノイジーな脚本だ。江本さんが実際に工場で派遣で働いた経験を元に書かれているという。確かにそういうリアリティがあった。
登場する25人には、それぞれ背景があるのだけれど、目立って印象に残る人もいれば、目立たず忘れてしまうような人もいる。その凸凹感が面白いとも言えるし、まとまりがないとも言える。25人を描いた群像劇という感じでは全然なく、ただ25人の人がいて、個性の強い人もそうでない人も同じ場で働いている・・・というだけだ。
でも、現実でも、25人いれば、目立つ人もいれば、印象が薄くすぐ忘れてしまうような人もいるわけで、そこもリアリティがあった。
はっきりとしたストーリーがないせいか、観た後の高揚感はあまりなかったが、工場で働く人々の会話は誇張されているけれどリアルだし、人間の本性が垣間見れる瞬間もあって、興味深かった。
劇中、オカマのお姉さんやオナベや、外見は男なのに性別は女という人が出てきたりする。マイノリティを登場させたのはなぜなのだろう。雑多な人々が東京にはいるということを描きたかったのだろうか。