キリンバズウカ『マッチ・アップ・ポンプ』

キリンバズウカ『マッチ・アップ・ポンプ』

脚本・演出◇登米裕一 出演◇日栄洋祐 渡邉とかげ(クロムモリブデン) 根岸絵美(ひょっとこ乱舞) 平田裕一郎 田中こなつ 金丸慎太郎(贅沢な妥協策) 小笠原結(劇団兄貴の子供) 内田周作 深貝大輔
8/6〜14◎川崎市アートセンター アルテリオ小劇場


とある壊れた家族が再生へと向かう物語。なのだけど、中心となるストーリー以外にも様々なエピソードがあり、そのどれもが面白い。登場人物もキャラ立ちしていてよかった。
田舎に住む父・コウスケ(深貝大輔)と娘のミズキ(田中こなつ)。母は10年前に男を作って出て行った。兄のタイラ(平田裕一郎)は父に暴力を振るうようになり、数年前に出て行き、行方不明のままだ。そのときに山火事が起こったのだが、誰が放火したのか未だにわかっていない。
ミズキは二浪中の受験生。家庭教師のオオチ(根岸絵美)がしょっちゅう家に入り浸ることに嫌悪感を抱いている。どうやらオオチとコウスケはできているようなのだ。ミズキはいろいろな愚痴を友人のタベ(渡邉とかげ)が働いている商工会まで行って彼女にぶつける。タベは受け身な性格で、ミズキに反感を抱きながらも彼女の話を聞いてあげている。タベにはタベで悩みがあるが、ミズキには話さない。
タベは自分の「中途半端」さが嫌だった。断ることができず、中途半端に男と寝てしまい、ずるずる付き合ってしまう。商工会の先輩であるクニオ(日栄洋祐)とも、酔った勢いで関係を持ってしまう。そのことに悶々とするタベ。一方クニオのほうはその出来事を忘れたかのようにタベに接する。それに傷つくタベ。
ほかにも、ダメ男であるコイズミ(内田周作)とずるずる付き合うだめんず女コダマ(小笠原結)や、ミズキにつきまとうエマ(金丸慎太郎)など、多様な人物が登場する。
ストーリーがきっちりある芝居だけど、そのストーリーを描きたいわけではなく、ひとつひとつのエピソードや登場人物の生き様を見せたいのかな、と思った。登場人物のどの人をとっても、それぞれの人生に悩んだり葛藤したりしている。それでもなんとかその日その日を生きている。
最後のほうでクニオがミズキに向かって放つ台詞が印象的だった。
「男ってのはさ、いろんなものを抱えて生きてるんだよ!それをわかってやれよ!」
女も女で大変だが、男も男で大変なんだなと思った。
個人的に好きだったのはタベのキャラクター。他人に対しては醒めた態度をとっているのに、実は情に流されやすい「中途半端」な自分を嫌悪するタベ。その葛藤は共感できるような気がした。