アル☆カンパニー『ゆすり』

アル☆カンパニー『ゆすり』

作・演出◇青木豪 出演◇平田満 大谷亮介 井上加奈子
7/21〜26◎ザ・スズナリ

2008年に初演されたものの再演。私は初見。私の好きな青木豪さん作・演出ということで、期待して劇場へ向かった。
3人の会話劇なのだけど、会話が進むうちに真実が明らかになる・・・のではなく、逆になにが現実でなにがそうじゃないのかわからなくなる。
観客はどんどん登場人物たちの記憶の迷宮に嵌り込んでいく。
台詞のなかで、「“思い込み”は“事実”になる」というのがある。好きな台詞だ、と思った。
兄(大谷亮介)と妹(井上加奈子)は、現実から背を向けるかのように、ありもしない出来事や実際にはいなかった人物などを「思い込み」によって「現実」だと認識している。
そこに現れた男(平田満)は、兄妹の秘密を知り、兄をゆする・・・。
平田満は、いかにもせこい小市民的な小狡い男を好演。借金をこさえてしまい、それに対処するのに、30年前の友人をゆすって金を得よう、という発想自体がせこいし、小さい。ゆすり方もいかにも卑屈でみっともない。だけど本当の悪人ではないし、どこか人間的で、憎めないところがある。
兄と妹の記憶を辿るうちに、儚い事実が明らかになる。
隠さなければならなくて、生きていくために自分自身をも偽らなければならなくて、現実ではないことを「現実」と認識していた兄と妹が、事実を事実と認める。
それはどこか幻想的かつ官能的で、哀しくも美しい。