『山羊・・・それって・・・もしかして・・・シルビア?』

文学座7月アトリエの会
『山羊・・・それって・・・もしかして・・・シルビア?』

作◇エドワード・オルビー 翻訳◇添田園子 演出◇鵜山仁 出演◇富沢亜古 今村俊一 若松泰弘 釆澤靖起
7/15〜30◎文学座アトリエ

<あらすじ>(公式サイトより)
美しい妻・スティービー(富沢亜古)と一人息子・ビリー(釆澤靖起)に恵まれた建築家マーティン・グレイ(今村俊一)は人生の最高の一週間を迎えた。50歳の誕生日、建築界の権威ある賞を受賞。巨額の資金を投じて建設される未来都市プロジェクトの設計者への選出。そんなマーティンのもとに旧友のTVジャーナリスト・ロス(若松泰弘)がインタビューにやってくる。幼馴染みのロスに、マーティンは衝撃の告白をする。
――僕は彼女に恋してる。あぁ、神様!あぁ、シルビア!
――シルビアって誰?
人も羨む幸せな家庭に投げ入れられた「シルビア」という爆弾が、人の信じる「正しさ」を吹き飛ばす。

───

「シルビア」というのは、山羊。
マーティンは山羊に恋し、関係を持ったのだった。
妻はそんな夫を激しく糾弾する。
うまくいっていた結婚生活に、突如として投げられた爆弾。
そこで問われるのが、なにが「常識」なのか?ということ。
そして、「受け入れられる限界点はどこか」ということ。
人によってその尺度は異なる。
マーティンは、山羊に恋したことも山羊と関係を持ったことも、そんな自分の行動に驚きながらも、受け入れている。
しかし妻にはとても受け入れられない。
夫がほかの女と浮気したというのならまだ受け入れられるが、相手が山羊というのは・・・。
妻は激しく動揺し、夫を糾弾する。
人は、自分の常識の範囲外のことが起こると、どうしていいのかわからなくなる。
そして怒りを他人にぶつけ、物を壊したりして発散しようとするが、そんなことをしても発散できるはずもなく、ますますどうしたらいいのかわからなくなる。
この芝居で妻が最後にとった行動は、常識を逸脱しているかもしれないけれども、妻のなかでは「常識」を守ろうとしたゆえの行動だったのかもしれない・・・と思えてくる。
不条理劇のように見えるが、実は「夫婦とはなにか」「愛とはなにか」を描いているように思えた。
夫と妻の、物を壊しながらの激しい言い合いのシーンは凄まじい。
妻は「私に全部話して」と夫に言う。聞きたくないことだけど、でも、知らなくてはならない。夫を愛しているからこそ、それを求めるのだろう。
それでも、聞きたくない言葉が夫の口から漏れると、妻は激しく反発し、物を壊す。
この夫婦は、この出来事が起こる前は、なにもかも本当にうまくいっていたのだ。
それなのに、突如としてこんな「事件」が起こり、今まで心身ともに一体だと思っていた夫婦関係が、まったくの欺瞞だったことがわかる。
この夫婦は、この出来事を乗り越えることができるのだろうか?
いずれにしろ、「話し合い」をきちんとしようとする妻は間違っていないし、それに誠実に答える夫も間違ってはいない。
事実から目を背け、話し合いや争いの場を持たず、なあなあの関係を築いている夫婦のいかに多いことか。
エキセントリックな設定で、人の持つ「常識」に揺さぶりをかけながら、人と人との関係を描いた作品だ。