2016年6月に観た舞台

木ノ下歌舞伎『義経千本桜』
極度の睡眠不足のため前半結構寝てしまったのが無念も、多田さんらしい演出満載で楽しかった。後半『渡海屋・大物浦』のクライマックスはすごい。終わり方はもっとあっさりめのほうが好み。今の日本に対するメッセージを入れたかったのだろうけど。

コクーン歌舞伎第十五弾『四谷怪談
忠臣蔵」を背景に、人々の欲望を描いたお芝居。主要人物のみならず、市井の人をきちんと描いている。どんな時代も人々は己の欲のために突き進む。基本、他人のことなど考えない。その結果周りを巻き込みひょんなことで恨みを買う。人間のドロドロした本能。男たちに翻弄される被害者であるかに見えるお岩やお袖だって、殺された父親や夫の仇討をしてもらうために男と一緒になるのだから、それもまた自分のためなのだ。人間の数だけ欲望があり、それが怨念となって全世界に膨らんでいく。ラストシーンは圧巻。斬新でスピード感ある演出で、複雑な話をわかりやすく見せている。ただスピード感があるぶんコンパクトにまとまりすぎている印象もあって、「歌舞伎」としては若干物足りなくもあった。

唐組『秘密の花園』東京千秋楽
やはりしみじみ良い本だな〜。唐さんのほかの作品に比べると派手さはないのだけど、比較的わかりやすいし、台詞もストーリーも情緒的で好き。前半は会話が多めだが、後半は水がどんどん降ってきたりと派手な演出。今回は若手の役者さんが中心だったが、皆熱演。役者のなかではかじかを演じた福本雄樹さんがよかった。若いイケメンなのだけど演技がすごい。滑舌がすごくよく、声がとおる。今後丸山厚人さん的なポジションになるのでは。久保井研もすごく味があっていい。なんなんだろう、この茫洋とした魅力は。美仁音ちゃん、もっと見たかった。私はこの作品の一幕の終わり方がすごく好き。ブラームスが大音響でかかり、ご不浄のドアが開くと、女が首を吊っている。そして部屋の扉から別の女(姉)が入ってくる……。この絵は痺れる。なんというかっこよさ。こんなに痺れる絵がほかにあるだろうか!東京千秋楽だからかテントは満員で、定員の275名以上の観客がいたと思う。熱気がすごかった。なんと唐さんも客席にいらっしゃり、カーテンコールで 「作、唐十郎!」と久保井さんに呼ばれてゆっくり舞台まで歩いていった。「やっと声が出るようになりました」と笑っていた。唐さんが登場すると場内大喝采。あちこちから「唐!」「唐!」「唐!」「唐!」と声がかかる。みんな、唐さんを見たくて見たくてたまらないんだよね(私も含め)。唐さんは本当にみんなに愛されている。

シルク・ドゥ・ソレイユ『トーテム』
「一度は観たほうがいい」とずっと言われていて、今回はロベール・ルパージュが演出だったこともあり、観に行った。これでもかというほど次々繰り出される芸に呆然。演目はバラエティに富んでいて、歌や小芝居もあり、最後まで楽しめた。高い一輪車に乗った女の子5人の芸「ユニサイクル・ウィズ・ボウル」がすごかった。 一輪車に乗りながら、足で皿を蹴り、何枚も頭に載せる。一人の女の子が次々と皿を蹴り、それをほかの女の子たちが次々頭で受け止めたりも。正面からだけでなく後ろからも。すごすぎる。小さな丸い台の上で披露される男女のアクロバティックなローラースケートもすごかった。男性が女性を抱きかかえるようにして演技。はては女性を遠心力でぶんぶん振り回す。そしてそれがとても美しい動きなのだ。「ロシアン・バー」にも度胆を抜かれた。男性たちが弾力性のある平均台を肩に担ぎ、その上を男性二人がぴょんぴょん飛び跳ねる。高く飛び、宙返りして着地、ということを繰り返す。平均台を担ぐ人たちも移動し、台も動いているのに、そこに飛び込むようにひょいひょいと。まさに超人。SS席だと13000円という高額チケットだが、一番安い席(それでも6000円だけど)でも充分迫力ありました。場所がお台場だし、友だちと一緒にイベント感覚で行ったほうが楽しめるかも。私は一人で行ったので、ちょっとさびしかった(笑)。

シベリア少女鉄道『君がくれたラブストーリー』
シベ少は毎回いろんなネタをやってくれていて、正直はまってないな、というときもあるのだけど、今回はものすごくはまった。この、はまったときのシベ少って最強!話が進むほどどんどんネタがわかってきて、「うわっはっは!」とお客さん大爆笑。
倉庫のような場所で、黒服の男女がカードゲームをやりながら、強盗計画を練っている。組織内の人間関係にはいろいろ問題があるようだ。皆、台詞を言うごとにカードを出す。きっとこれに仕掛けがあるんだろうな……と思いながら観ていると、途中でカードが置かれたテーブルがスクリーンに映し出される。カードにはそれぞれ、登場人物が言った台詞が書かれてあった。どうやらこれは即興芝居のようなもので、皆、自分の手持ちのカードを使い、その場面に合った台詞が書いているカードを出し、カードがなくなった者から順にあがっていく、というゲームのようだ。カードに書かれている台詞は、それだけだと意味不明だったりするのだけど、即興芝居を行うなかで様々な場面が訪れ、意外なところで使用される。そこに笑いが起きる。ただカードを出せばいいのではなく、きちんと場面に合ったカードを出さないといけなくて、その審査は厳しい。合わないカードを出すと容赦なく「ブ―」という音が鳴らされる。頑張ってカードを出すのだが何度やっても「ブー」が続く人がいたり。「へえ」とか「そうそう」という相槌系のカードばかり持っている人がいたりして、人の台詞にどんどん相槌を打って一気にカードを使いきってあがったり。一ラウンド目が終了し、優勝した男が賞金を受け取る。ビリになった男は納得がいかず、リベンジを申し出、二ラウンド目が始まる。
二ラウンド目は、学校が舞台のようだ。ある男の子に片想いをしているという設定の女の子がいて、彼女を応援する友人がいる。一方、彼女に横恋慕する男がいて、強引に自分のものにしようとしたりする。片想いしている男の子の持っているカードは女性の台詞ばかりだった。そのカードを出し続けるうちに、男の子は実はゲイだったということに。一方、女の子を応援していた友人はタイムスリップしていた。一枚のカードに書かれた台詞が、時空間を超え、様々な意味で使用される。絶妙なタイミングで出されるカードに感心したり、突飛な展開に「ここで使う!?」と驚いたり、トホホな内容のカードに脱力したり。一枚のカードを出すことで、展開が180度変わってしまう様は、まるでカード爆弾を落としているかのよう。くるくると変わる展開に、客席は爆笑に次ぐ爆笑だった。毎回感じるが、土屋さんの「言葉」へのセンスがすごい。言葉ってなんて面白いのだろう、と思う。やってる内容はすごくくだらないのに、ほんとにパズルのように緻密に組まれている。こんなくだらないことを緻密に作り込んでやってる人たち、すごいと思う。それがシベ少の最大の魅力だ。

中野成樹+フランケンズ『えんげきは今日もドラマをライブする』Bプロ「戯曲のノンストップ・ミックス」
ナカフラ流ミックス・アルバム。古今東西の戯曲より名シーンをメドレー上演。ギリシャ悲劇からシェイクスピアチェーホフ、イヨネスコ、三島由紀夫、そして柴幸男『ままごと』、三浦直之『いつ高』まで幅広くカバー。めちゃくちゃ面白かった。演劇はなんて豊かなんだろうかとしみじみ感じる。これをこういう形で上演したナカフラはすごい。特に役者すごい。もっとずっと観ていたかった。

□字ック『荒川、神キラーチューン』
初□字ックだったが、すごかった。なぜ今まで観ないでいたのか!ショーコ役の小野寺ずるがかっこよすぎる。自意識過剰でマニアックで人がよくて、だけど自分の世界を持っていてマンガの才能があり、カラオケを歌わせればめちゃパワフル。彼女が激しく動きながら絶唱するシーン、よかった。わけのわからない、ワーーーッ!という衝動が伝わってきた。いろんな女の子が出てくる。事件が起こる。中学生の女の子はやがて大人になり、過去に起こったことを振り返る。中学生のときはその意味がよくわからなくても、大人になったときわかって後悔したり。大人になってもやはりわからなかったり。だけどこの芝居は、ストーリーとかテーマがどうこうではない。理屈抜きで心臓を貫かれるような感じ。

青年団『ニッポン・サポート・センター』
平田オリザの新作。とても緻密に構成され、シリアスな問題を笑える作品に仕上げていた。しかし青年団の芝居にありがちなベタさ(みんなで合唱とか、一昔前のギャグとか)も感じ、微妙な気持ちにも。面白かったんだけどさ。

6月の観劇本数は8本。
ベストワンはシベリア少女鉄道『君がくれたラブストーリー』。