6月に観た舞台

6月に観た舞台の一覧です。

モリー・スウィーニー』観劇。すごかった。脚本にも演出にも俳優にも圧倒された。盲目の女性が、手術により奇跡的に目が見えるようになる。幸せな出来事のはずなのに、そのことによって彼女の世界は変容してしまう。モリーもフランクもライスも哀れ。ラストでは泣き崩れてしまった。

表現さわやか『フィフティーン・ラブ』観劇。劇団員扮する女子高生たちが微笑ましい。『ガラスの仮面』のネタが一番笑えた。全体的にいつもよりマイルドな感じで、後半やや失速気味だった気が。池鉄が佐藤貴史さんにアドリブを強いていて、佐藤さんが素で困惑していたのがおかしかった。

青年団リンク二騎の会『四番倉庫』観劇。生きることに不器用な男たちの会話劇。菅原直樹演じる若い男の抱える絶望感がひしひしと伝わってきて、叫びだしたくなった。仕事を失えば明日にもホームレスになるかもしれない・・・という危機感は、多くの現代人が抱いているものだろう。島田曜蔵演じる空気を読めない男は、本気でうざかった(笑)。でもああいう人いるよね。島田曜蔵演じる内田と、秋山建一演じる磯崎を観ていて、年をとってどう生きるか・・・ということも考えさせられた。年をとればその分生きづらくなる。内田はジョークにして生き、磯崎は真剣に生きる。年をとったとき、頼れるものはなにか?内田も磯崎も、金もなくほかの友人もなく、結局頼れるものはお互いしかない。仕事は一応しているが、いろいろあって大変だ。しかしいい年をして友人に頼ってもロクなことはない。それでも、友人がまったくいないよりはましだ・・・。結局はそういう「友人」がいることが幸せだ、ということが言いたかったのだろうか?だとしたら絶望しか感じ取れない。だって速水が置かれている状況は絶望そのものだし、そこからどうやって立ち上がればいいのかもわからない。ただ「立ち上がる」必要性がある、という未来が示されるだけ。結果的に、『四番倉庫』は、観ていて辛いものがありました・・・。自分の現実とリンクしてしまう。しかし、『四番倉庫』は、言われているほど「ダメ男たちの話」ではないような気がする。もっと現代社会を生きる人間の話だ。リアリティのある話だと思う。

劇団桟敷童子『オバケの太陽』観劇。いつもの大仕掛けは健在だが、少年の話だからかいつもよりマイルドな印象。目立った悪人がいず、この劇団の十八番である、善と悪、あるいは貧乏人たちと富める者との闘い、みたいなのがなかったのも少し物足りない。これはこれで新しい魅力はあるけれど。

劇団どくんご『A Vital Sign-ただちに犬』観劇。筋らしい筋があるわけではなく、ナンセンスなショートストーリーが延々と続く感じ。面白いシーンとそうでもないシーンが混在。役者一人で演じるシーンが多いが、全員で歌ったり踊ったりするシーンのほうがサービス精神旺盛で楽しい。

国分寺大人倶楽部番外公演『リミックス2』観劇。第5〜8回公演の4作品を、それぞれ約20分ずつの短編にリミックスしたもの。私はすべての公演を観ているが、少し話が作り変えられてた。4つの話に繋がりがあるようになっていた。特に『ガールフレンド』と『ホテルロンドン』のラストが最高だった。ひとつひとつの作品に対する作者の愛情を感じる。丁寧に丁寧に作られ、繰り返し作り変えられ、愛されて、作品は幸せだね。露悪的な表現の内側に、すごく繊細で優しいものが溢れている。その優しさに触れると、涙が出そうになる。そんな作品。

スタジオライフ『PHANTOM〜語られざりし物語』Sチーム観劇。『オペラ座の怪人』のエリックの人生を描いたもの。長い作品だが、後半にかけて面白くなっていく。エリックも切ないが、母親のマドレーヌも可哀相。マドレーヌ役の青木隆敏くん、とてもよかった。笠原浩夫さんがかっこよかった。

ONEOR8『ペノザネオッタ』観劇。作・演出の田村さんと世代が近いので、登場するアイテムがとにかく懐かしかった。主にファミコンなんだけど。ドラクエのテーマ曲を聞くだけでタイムスリップするような感じ。芝居も現在のシーンと過去のシーンとを瞬時に切り替えたりなど巧みな演出が冴えている。

乞局奇譚集2011『標本』観劇。短編集だからか、作風がまったく変わった印象を受け、ちょっと焦る。でもよくよく考えれば、乞局らしいねっとりした感じとか、虫をテーマ(?)にしてるところとかは、らしいのだけど。「蟬」と「蝶」が好きでした。でも乞局には長編、それも新作をやってほしい。乞局の物足りなかったところは、なんかほかの劇団でもそういうの扱ってそうな気がしたから。乞局ならではのもっと気持ち悪い、後味悪い感じはもっと出せたんじゃないかと思う。でも、乞局も新たな展開を迎えているということなのかもしれず、それはそれで否定はしません。いずれにしても、昔から応援している劇団がどんどん変わってきている…というのは、いいことかもしれませんね。

ウーマンリブ『サッドソング・フォー・アグリードーター』観劇。松尾スズキ岩松了、そして宮崎あおいの共演が話題になっている本作。岩松了宮崎あおいが恋人という設定も面白いし、岩松了の登場シーンは受けた。宮崎あおいは、せっかくのウーマンリブなんだからもっと弾けた面も見たかったかな。宮崎あおい演じる翠に共感。「過去の自分」を超えられない。かといって過去に戻ることはできない。だから過去の自分と、過去の自分を愛する人々を憎む。そして今の自分をも憎む。切ない・・・。たとえば15年前の自分を思い出すと、それはもはや他人。でも、他人である15年前の自分のほうが、現在の自分より魅力的に感じる。過去を美化するとか、若さが素晴らしいとかいうことではなくて。なにか決定的なものを、失ってしまったんだよね。。。
岩松了演じる犬吠は、56歳なのに自称「アーティスト」で、今までヒモをやったりなんだりしていて、真面目に働いた経験が一度もない。56歳なのに定職につかず、職人でもなくこんなに自由に生きてるってなんなんだ・・・。思わず嫉妬。ウーマンリブを観ていて考えさせられたのは、「型にはめられた生活」がはたしてよくないことなのかってこと。私の考えでは、むしろそのほうが楽でいい暮らしだと思う。毎朝5時に起きて人形焼きを焼いて売って、夜8時には寝る・・・という松尾スズキ演じる父の生活のどこが悪いんじゃ。と思う。「自由」という言葉はトリックだ。枷があるからこそ「自由」がある、と私は思う。昔、高校生くらいのころ、江川達也の『BE FREE!』という漫画を読んでそう思った。ほんとになんにもなくなったら、人は「自由」という感覚すら得られなくなる。

『20年安泰。』観劇。バナナ学園が始まった途端、やられたと思った。バナナに乗っ取られたと思った。とにかくあの混沌のなかに身を置いていることの幸福感、高揚感が半端ない。バナナ最高!あなたたちはマジすごいよ!撤収もマジすごかった!ここまでやってこその演劇という気がした。

ハイバイ『七つのおいのり』観劇。劇団員それぞれが作・演出を担当した7つの短編集。どれもすごく面白かった。全員レベル高い。『あ、どうも』『姉の結婚』『金子の誕生日』が特に好き。主宰の岩井さんがほとんど女装というのは受けたし、やっぱこの人は俳優としてのサービス精神がすごいな〜と感嘆。

演劇集団円公演『未だ定まらず』観劇。前田司郎作・演出というのに惹かれて観に行ったのだけど、ストーリーらしいストーリーがなく、退屈で寝てしまった。。。ただ前田さんと劇団員たちによるアフタートーク(ほとんど前田さんがしゃべっていた)は面白く、やっぱ前田さんは話がうまいなあと感嘆。

新国立劇場『おどくみ』観劇。青木豪作、宮田慶子演出。青木さんの新作ということで期待して観た。昭和の時代のある家族を描いた物語。青木さんの作品らしい、一見なにも起こってないのに、じわじわと「毒」を感じさせる作風。「家族」ってなんだ?「幸せ」ってなんだ?と、いろんなことを考えました。舞台は横須賀にある惣菜屋弁当屋。店を切り盛りしている妻・美枝の日常への不満、憤怒が伝わってくる。なぜここに嫁いでしまったのか?私の人生はこれでよかったのか?でも、ここから出て行く決意もなかなかできず・・・。人って「習慣」の生き物だな、と思う。それは良いことなのかも。『おどくみ』を観て、改めて「家族」ということ、そしてなにが「幸せ」なのかということを考えた。大学を卒業しても就職せずぶらぶらしている長男に向かって、パートのおばちゃんが「結婚して子供を作ることが一番よ」みたいなことを言うシーンがある。それはほんとにそうかもしれない、と今は思う。『おどくみ』では、劇中、天皇についての話も出てくる。学習院大学に通う長男が映画を撮っていて、その内容が「天皇を暗殺する」というものなのだ。でも昭和の時代は皇室にたぶん今より期待していて、雅子様が皇室に入ることでもっと日本は外交的になるとか、いろんな勝手な期待が交わされる。
とにかく、今の時代は、なにが幸せなのかということを、各自で選んでいく時代であると思う。結婚して子供を作ったり、仕事を頑張ったり、あるいはぶらぶら生きたり、それはその人それぞれでいいのだけど、結局最後に頼れるのは人間、それも家族なのではないだろうか。私も家族がほしい。結婚したい。かといって、『おどくみ』の美枝みたいに、結婚して毎日あんなに働かされて・・・という生活も嫌だけども。仕事にやりがいを感じていて楽しく仕事できてればいいけど、美枝の場合はそうでもないようだし。今まではそういう生活って絶対あり得ない!と思っていたけど、今はそれはそれでありかなあと思う。『おどくみ』を観て、まったく関連性がないかもだけど、女性が今の東京で一人で働いて生きて行くのは大変だなあと感じた。夫や子供がいないと、閉塞感が募るんじゃないか。「誰かのために自分が頑張らないと」というのがないと、鬱病とかになって、最悪自殺してしまうんじゃないか。そんな恐怖がある。『おどくみ』の美枝は、あぶないところをギリギリ持ちこたえた。だけど、人の一生ってそういうことの繰り返しかもしれない。あぶない時期が何年かあって、そのあと少しよくなって安定してきて・・・というふうに。だから、自殺なんて早まったことをしてはいけないんだ。人が、いつまでも元気で同じ場所に居続ける・・・というのは、実は、奇跡のようなことなんだよね。我々はそれを当たり前だと思っているけども。

クロカミショウネン18『不都合な四日間』観劇。台本を劇団競泳水着の上野さん、あひるなんちゃらの関さん、乞局の下西さん、そして座付き作家の野坂さんの4人の劇作家がリレー執筆したという本作。パートごとにまったく空気が変わっていて面白かったー!特に下西さんのパートは濃い空気感が充満。こんなに風呂敷を広げて、最後どうまとめるのだろう?と思っていたら、野坂さんが見事にすべての伏線や謎を収斂されていて、さすが!と思いました。役者さんたちもそれぞれ世界観の違う作品のなか、健闘されていたと思います。

飴屋法水演出『おもいのまま』観劇。面白かった。「思い」の強さによって現実は変わる・・・というテーマが、今の私には痛いほど伝わってきた。嫌な「思い」を抱いていたら嫌な現実が待っている。逆に、ポジティブな「思い」を持っていれば、いずれ現実もそれについてくる。確かにそうかもしれない。内容については触れずにおくが、チラシによると“「選択」と「結果」の化学反応を完全劇化”したもので、ある意味人生そのものを描いている。スリリングで生々しかった。役者4人の演技がとても生々しく、濃い空気が滲み出ていた。なにより印象的だったのは「音」。さすが飴屋さん。「あのとき、こうしていれば・・・」と思うことは誰だってあるし、今の私はそんなことを思ってばかりだ。過去を振り返って後悔してもはじまらない、とわかっていても、やっぱりね。。。だけど、どうしたらポジティブな「思い」を抱けるようになるのだろう。「気の持ちよう」と言われても、わからない。どうあがいてもポジティブになれないときもある。『おもいのまま』は、個人の「思い」をきちんと伝えることが必要、というテーマもあると思う。言葉にして伝えなければ、真実はわからないし、良い方向にはいかない。